万博まで半年 地方へ訪日客呼び込め 都会の観光公害解消にも貢献 課題は交通の脆弱さ
1人当たりの旅行中の支出額も、大阪府が8万4470円だったのに対し、兵庫県は1万6431円、奈良県は6534円と大きな差があった。
近畿運輸局は「訪日客の行き先が偏在化することはオーバーツーリズムの問題を起こし、宿泊施設や交通事業者の業務も逼迫(ひっぱく)させる。観光客の流をいかに平準化するかが重要だ」としている。(黒川信雄)
■脆弱な交通、地方での移動の壁に
都心部にない魅力を持つ地方だが、訪日客を呼び込み観光地として開拓するには大きな障害がある。現地で人が移動したり、現地まで人が来たりするための交通手段が脆弱(ぜいじゃく)なことだ。
茶の名産地として海外の注目を集める京都府南山城村も、関係者は「村内での移動手段が限られることがネックだ」と語る。
村などが手掛けるタクシーがあるが、地元の高齢者らの輸送が主な目的で夜間の運転などはしておらず、観光客が利用するには不便もある。
兵庫県新温泉町も、車がなければアクセスが困難。町内にはJR浜坂駅があるが、沿線は鉄道利用者が少なく、JR西日本が公表する「赤字ローカル線」となっている。
路線維持に向け、同町は町民に鉄道利用を呼びかけるが、「町だけの努力で状況を変えるのは困難」(同町関係者)なのが実情だ。
また、同町は面積が約240平方キロと広大で、町内での移動は容易でない。しかし、これまで需要がなかったため廃業したタクシー会社もあり、タクシーは不足している。
同じ構図は人口が減少している地域に共通しており、訪日客を呼び込み地域の経済を活性化する上で、大きなジレンマとなっている。
■住民巻き込み成功事例の共有を 第一生命経済研・今泉典彦研究理事
地方が今後生き残っていく上で、観光は大きな産業の柱になる。ただ、東京・名古屋・大阪の3大都市圏に宿泊した訪日客の割合は、新型コロナウイルス禍前の令和元年は訪日客全体の62・7%だったが、5年には72・1%に上昇した。都市中心部に訪日客が流入する動きはむしろ強まっている。