「秋が深まる」と言うのに、「冬が深まる」と言わないのはなぜ? 「日本語と季節」の頑固な関係
まだまだありそうな「頑固な日本語」
ふかわ:日本語は繊細なんだけど、どこか揺るがないものを感じて。曖昧ではあるんだけど、ジャケットを羽織ったときのしっくりこない違和感をちゃんと拾えるというか。そういうものが季節の言葉にはあると思うんです。 川添:たしかに、季節を表す言葉については、妙なこだわりが感じられますね。 ふかわ:日本人は農耕民族だからか、特に季節に関して敏感というか、言葉も影響を受けているのだと思います。 虫の声を聞いたとき、日本人は「秋だなあ」と思う。セミの声で夏を感じたり。そういうのも日本人の特徴ですよね。 川添:ヨーロッパはそもそもセミがほとんどいないらしいですからね。 ふかわ:あと「うるさいなあ」で終わってしまうというか。季節と結びつけて愛でる感性はないのかなあと。 川添:季節と結びつきが深いのは日本ならではでしょうね。季節ではありませんが、朝昼晩で「深まる」のは夜だけですね。あと「更ける」のも夜だけ。 ふかわ:本当ですね! 深夜っていう響きも、深夜番組の高揚感に寄与している気がします。 川添:あと、「下がる」のは、昼だけですね。 ふかわ:昼下がりの情事! 先入観のせいかもしれないけど、「昼上がり」だったら情事はなかったような気がしますね。昼下がりだから、なんとなく気だるいような雰囲気がある。 川添:正午がてっぺんというイメージがあるんでしょうね。太陽の動きと連動して。あと「午前中」はあるけど、「午後中」はない。頑固な日本語はまだまだありそうです。 ふかわ:ほんとに頑固。融通が利きそうで全く利かない。ちなみに「午前様」って誰が言い出したのでしょう。 川添:あれはおそらく、「静御前」などのように使われている敬称でしょうね。それを深夜、日付が変わって「午前」になってから酔っ払って帰ってくる人とかけて、使われるようになったのでしょうね。 ふかわ:あ、そこから来ているのか。帰りが遅くなる背徳感と丁寧な表現がミスマッチでいいですよね。 川添:あと「午前様」って呼びかける側の気持ちからすると、「あらあら、こんな遅い時間に帰ってくるなんて、たいそうなご身分だこと」っていう嫌味も入っていると思うんですよね。そういう意味では、「午前様」の「様」は、「何様」の「様」と同じなのかも。 ふかわ:昨今の「子持ち様」的な。スパイス効いてますね。
川添 愛、ふかわりょう