『マッドマックス:フュリオサ』フュリオサの瞳、孤高のシルエット
星と共にあれ、魂と共にあれ
フュリオサはディメンタスによってトラウマを植え付けられていく。ディメンタスは処刑の場面にフュリオサを立ち会わせていく。世界のすべての残酷さを目撃せよ、と言わんばかりに。少女の網膜に張りついたトラウマが、フュリオサというキャラクターを形成していく。ここには『フュリオサ』がディメンタスという“父殺し”の旅に出なければならない理由がある。フュリオサの戦いとは、殺された母親と自分の少女時代を奪還するための戦いだ。 フュリオサの母メリー・ジャバサが属する一族の間では、「星と共にあれ」という呪文のような言葉をささやき合う。この言葉は前作のウォーボーイズの一人ニュークス(ニコラス・ホルト)が、砦(シタデル)の支配者イモータン・ジョーへの忠誠心として唱えた「魂と共にあれ」という台詞と言葉の上で韻を踏みつつ、まったく異なる広がりを響かせている。ニュークスによる「魂と共にあれ」は、イモータン・ジョーへの忠誠心によって生まれ変わることができるという、教祖への自己犠牲的な信仰だ。しかしメリー・ジャバサやフュリオサたちによる「星と共にあれ」には特定の教祖はいない。その言葉は自分たちの属する共同体への連帯の言葉として投げかけられる。この世においてもあの世においても、それぞれが自立した星としてあり続けることを願う、祈りの言葉のようなニュアンスを感じる。黙示録後の荒廃した世界を描く本シリーズにおいて、その言葉の持つ透き通った切実さが胸を打つ。 片腕の戦士フュリオサが砂丘の上に立つシルエットを忘れることはないだろう。そこには自立した星として生きることを選んだフュリオサの孤高の怒りと悲しみが滲んでいるのだ。 文:宮代大嗣(maplecat-eve) 映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。 『マッドマックス:フュリオサ』 大ヒット上映中 配給:ワーナー・ブラザース映画 (C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. IMAXR is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.
宮代大嗣