JR九州の日韓航路撤退「安全を軽視して運航できない」…利用者「便利だったが仕方ない」
JR九州が23日、日韓を結ぶ高速船事業からの撤退を正式に表明した。完全子会社のJR九州高速船が旅客船「クイーンビートル」の浸水を隠して3か月以上運航を続けた問題が発覚し、運休してから約4か月。運航再開を目指してきたが、浸水を繰り返した船の補強が困難と判断し、再開断念に追い込まれた。国鉄民営化後の1991年から30年以上続いた国際航路は、不祥事をきっかけにその歴史に幕を閉じることになった。 【表】JR九州グループの高速船事業を巡る経緯
「運航再開を期待していたみなさまにおわびしたい。船体の亀裂発生のリスクを完全に払拭することができず、確実な安全を担保できない」。JR九州の古宮洋二社長は23日の記者会見で謝罪し、撤退の理由について安全性への懸念を強調した。
問題は国土交通省の8月の抜き打ち監査で発覚。JR九州高速船が2月中旬からクイーンビートルの亀裂による浸水を隠して運航し、5月末になって初めて浸水が発生したかのように国に報告した。船は8月から運休し、同社の当時の社長ら幹部3人が解雇され、古宮社長は報酬月額30%(2か月)を自主返納とした。
古宮社長によると、亀裂を繰り返した船首の補強のため、新たな溶接方法で強度向上を図ろうとしたが、専門家から亀裂発生の可能性は残るとの指摘を受けたという。古宮社長は「安全を軽視して、運航できない」と述べた。また、格安航空会社(LCC)との競争や、浸水隠しなどの問題が起きたこと自体も踏まえ、撤退を決断したと説明。「(JR九州の事業)多角化の象徴でできれば続けたかった」などと無念さもにじませ、責任の取り方を問われると、「報酬カットとしているので」といら立った様子も見せた。
福岡海上保安部は10月、船舶安全法違反(臨時検査不受検航行)と海上運送法違反(安全管理規程違反)の両容疑で、同社と船を捜索するなど捜査を続けている。このため、JR九州高速船は捜査への対応などが終わり次第、解散するという。
年に数回利用していた福岡市東区の会社員(48)は「荷物を持ったまま出港間際の時間に行っても利用できて便利だったが、(安全に運航できないなら)撤退は仕方ない」と話した。韓国・蔚山大名誉教授で、日本語を指導する韓国人のキム・ドンワンさん(70)は高速船をよく利用して福岡を訪れていた。「私のような利用者には切実な問題。裏切られた気持ちだ」と語った。