トラヴィスのフランが語るザ・キラーズとの交流、晴れやかな現在地、日本で暮らしたい理由
去る7月、フジロック開催直前にふらりとやってきたフラン・ヒーリー。リリースされたばかりの新作『L.A.Times』プロモーションのため何本かの取材に応じ、その翌日に東京は渋谷にあるクラブ・SPACE ODDでソロ公演を行なった。当然のごとくチケットは完売。集まったトラヴィス・フリークたちは、お馴染みのトラヴィス節に酔いしれ、お馴染みの大合唱。前日の取材で、ステージでバックトラックを使用するバンドをディスったフランが、嬉々としてバックトラックを多用していたのが、なんだか可笑しかったが、ことの発端がカラオケであったことを思えば(以下インタビュー参照)、納得できなくはない。このソロ公演は、トラヴィスのライブとは“別物”なのだ。猛暑が続く夏の一夜、終演後も外はもわっと暑かったけれど、身体の中には心地よい風が吹いていた。 【画像を見る】髪はオレンジ色、フラン・ヒーリー(トラヴィス)の近影 さて、そのライブ前日の取材。この日はフランの51歳の誕生日。マシンガントークは変わらず、明るいオレンジ色の髪のせいもあるかもしれないが、いつにも増して、晴れやかでポジティブな空気をまとっていた。 * ─お誕生日おめでとうございます。51歳になった今の気分は? フラン:最高だよ。昨日の夜、ホテルの部屋に到着したら、チーズケーキやシャンペン、チョコレートなんかが用意されていて、なんて素敵なホテルなんだ!!と思ったんだけど、ちょうどその時Facetimeで話していたガールフレンドのアレンジだったんだ。見ると、「サラより」ってカードがあった(笑)。そしてベッドに入り、長い時間ぐっすり寝られたから、気分がいいよ。 ─今回はプロモーション来日で、明日はソロ・ライブを行ないますが、珍しいですね。 フラン:今年の2月に、ニューヨークでバーを経営している友達がメキシコでポップアップをすることになったから、そこに僕が行って、カラオケで自分の歌を歌うっていうアイデアを出したんだ。友達が「それ、いいね」っていうから「じゃあ、やろう!」ってなって。実際にカラオケでトラヴィスの曲を歌ったら楽しかったし、ファンの人もいつもと違うのを楽しんでくれた。それで、夏に韓国に行く予定があるから、プロモーターとエージェントに「韓国に行く前に日本で何かできないかな? ソロのライブはどうかな?」って相談して、今回できることになったというわけ。 ─フジロックには行かないんですか? ザ・キラーズが出演しますが。 フラン:その日に韓国に移動しなくちゃいけないんだ。でもブランドン(・フラワーズ)とは同じホテルに泊まるから、モーニングかディナーを一緒にできたらいいなと思っている。 ─先頃行なわれたザ・キラーズとのツアーは、いかがでしたか? フラン:トラヴィスがやっていることは、とてもユニークだと思う。今では僕たちのようなバンドは他にいないという結論に達している。僕たちは、人々のために演奏したいんだ。人々は僕たちを観に来るのではなくて、その逆。僕たちのサービスを受けに来る。そして、僕たちは本物だ。重要なのは、人々とつながり、物語を語り、歌い、また人々を結びつけること。それが、本物であるということ。人々は本物を見る必要がある。 今は、バンドの演奏よりもバックトラックが多い時代だよね。バンドが演奏を止めても、ステージにはバックトラックが流れ、彼らの演奏をサポートしている。でもトラヴィスでは、バンドが演奏を止めたら音楽が止まる。ザ・キラーズとのツアーのとき、僕がステージから飛び降りたらギターのシールドが抜けて音楽が止まった。恥ずかしかったし、イラッとしちゃったけど、でも思ったよ。これが本物ってことなんだって。それで観客にも言ったんだ。「これが本物、これこそがみんなが観るべきものだよ」って。本物であることを恐れないバンドを、もっと見る必要があると思う。 バックトラックは松葉杖のようなもの、または乗れない自転車の後ろのスタビライザーのようなもの。なんでみんなバックトラックを使って演奏するのかな? いいバンドならバックトラックは必要ないし、“曲”があるならバックトラックは必要ないよ。すごく奇妙だと思う。 ちゃんと質問に答えているかな?(苦笑)。要するに、ザ・キラーズはバックトラックを使用していない。そして、それが2つのバンドが一緒にうまく機能する理由だ。彼らは、ライブ音楽を信じているんだよ、僕たちと同じようにね。 ─それで意気投合しているんですね。ところで、あなたのその鮮やかなオレンジの髪ですが、前作『10 Songs』のときの赤いジャンプスーツを思い出します。あのときあなたは、赤が好きだし、着心地のいいジャンプスーツは戦闘服のようなものと話していました。 フラン:そうそう、覚えてるよ。あの時と似た感じはあるんだけど……『The Man Who』や『The Invisible Band』の頃にも髪の毛では結構遊んでいて、僕はそれがすごく気に入っていたんだ。でもやめた。ちょっとハゲてきちゃったから。でもね、今回はもうそういうことを気にしないで、また楽しもうと思った。このバンドを、すぐに認識してもらえるようにしたかった。それにはこれがいい方法だと思えた。中には「あいつ、何やってるんだ?」って言う人もいるだろうけど、それこそが、僕がこれをやっている意味。キミがこの髪の毛について聞いてくれたという事実がポイントだよ。僕は、自分の髪の毛についてこんなにたくさんのいいコメントをもらったことがなかったからね。髪の毛が人を笑顔にしたり、笑わせたり、冗談を言ったりするきっかけになる、そういうのが好きなんだ。楽しくて、フレンドリーで人々とのつながりを築く。これもまた本物で、いいものだよ。 僕がニューヨークのバーにいたときに……写真を見せなくちゃ!(と言ってスマホ内の写真を探しながら)ひとりの老婦人が僕のところにやって来た。彼女は80歳くらいだったかな。僕たちは4人でテーブルに座っていたんだけど、彼女が僕の目の前にポストカードを差し出して言ったんだ。「これは私からじゃなくて、彼女からよ」って。彼女が指さしたドアの方を見ると、彼女より年上に見える女性が立っていた。85歳くらいかな。ポストカードをくれた婦人はクスクス笑いながら、まるで女子高生のようにその場から逃げ出したよ。そして僕がポストカードを裏返すと、こう書いてあったんだ(と写真を見せてくれる。カードの裏には、「あなたの髪の毛、素敵ね」の文字とスマイルマークが2つ)。こんなことが毎日のように起きているんだ。素晴らしいし、楽しいでしょ? ─キャリアを振り返った時、今の話のように知らない人に話しかけられたり、注目されたりするのに抵抗を感じた時期もありましたよね。なのに今は、とても楽しんでいる。それが変わってきた境目、変化の理由は何かあるのでしょうか? フラン:僕は内向的で、外向的ではなく恥ずかしがり屋で、僕より社交的な人はたくさんいる。僕らには、長い間とてもいいマネージャーたちがいた。最初のA&R、元Go Discs!のアンディ・マクドナルドも最高だった。彼が設立したインディペンディエンテが僕らと契約をしてくれて、「君たちの好きなようにやりなさい」といつも励ましてくれた。何人かそういうスタッフと組んだ後、残ったマネージャーは「あれをするな、これをするな、髪を切るな」と言う人で、僕は何年もの間自信を失った。アーティストというのは繊細な人間だから、簡単に操られてしまうんだよ。それでようやく3年前、僕たちは彼をクビにしたんだ。出て行けって感じだった。そして僕はバンドを取り戻し、自信を取り戻した。僕は、「髪を染めるんだ」「バスの後部座席に乗ってグラスを回して人々に叫んでバカなことをするんだ」「ザ・キラーズのサポートをやるんだ」って、好きなことをやり始めた。僕たちにはできる。何かをするのに、誰かに許可を求める必要はない、ただやるだけ。ポジティブで、明るく、寛容な方法で何かをする限り、それは楽しいし素晴らしいし、すべてが生き生きしてくる。それが今の僕の性格ということだね。 それに、僕は本当に生意気でね。生意気なのが大好きなんだ。いつもクラスで「質問してもいい?」と尋ねる子だった。質問することを恐れたことは、一度もなかった。好奇心を持つことを恐れたことも、一度もない。僕は4歳の頃の自分ととても仲良しなんだ。4歳の僕は、おバカで、言ってはいけないことを言ってしまうけど、それはそれでいいんだ。だって、だからこそアルバムが素晴らしいし、すべてが一定レベルを超えるとわかっているからね。そして、アンディ・マクドナルドのような人たちは、誰かを元気づける必要があると分かれば、元気づけてくれるはずだ。 自分に自信がないくせに、自信が持てない他人を見てさらに自信を奪うためにけなす人がいる。そういう人を人生から排除して自信を取り戻さなくちゃ。電話で話した後に「はぁ」とため息が出てしまうような相手がいるよね。そういう場合は大抵、その電話相手を人生から追い出さなくちゃいけない。その人は、あなたにとってよくない毒だから。あなたが愛する人々と、あなたを愛してくれる人が周りにいれば、いい人生は送れるよ。