トラヴィスのフランが語るザ・キラーズとの交流、晴れやかな現在地、日本で暮らしたい理由
「別れ」を乗り越えた先にある幸せ
─新作『L.A.Times』についてですが、あなたは資料で「『The Man Who』以来最もパーソナルなアルバムだ」と話しています。でも、前作『10 Songs』も非常にパーソナルな作品だったと思うのです。前作のパーソナルと新作のパーソナル、同じパーソナルでありながら、何が違うのでしょうか? フラン:いい質問だね。『L.A. Times』と『10 Songs』の違いは、僕らがマネージャーを選んだことだよ。僕は、自信を取り戻した。あの男は有害で、僕の自信を奪った。彼は、僕に自分自身を信じさせず、16年間バンドを止めようとしていた。バンドメンバーの一人一人に、君たちは良くない、これは良くない、あれは悪い、これがこのバンドだ、などと押しつけ、そして僕たちは「自分たちはダメだ、できない、よくもそんなことができたな」と感じてしまった。人は一体、どうすればあんなことができるんだろう? 答えは、あんなことができる人とは、自分の人生にとても不満を抱いている人だということ。 過去数年で、僕は多くのことを学んだよ。もし誰かがあなたを不幸にしたら、不幸なのはあなたではなく、あなたを不幸にした彼らであり、彼らは彼らと同じようにあなたを不幸にさせているんだってこと。そのことに気づいたら、そういう人たちを排除する必要がある。僕たちは排除した。これが違い。 『10 Songs』は、僕とノラ(離婚した妻)の別れについてだった。あれは、別離のアルバムだった。すべての曲は、僕とノラの別れのプロセスについてで、とても個人的な内容だ。でも、新作は次のレベルだよ。何が起こったのかはわからないけど、唯一の違いは、自信を取り戻したということ。自分のやっていることをもっと信じられるようになったんだ。 息子は成長し、18歳になった。高校を卒業したけど、彼も本当に大変だった。2年の間、原因不明の病気にかかっていたんだ。アメリカの医者はみんな、何が起こっているのか分かっていない。なぜなら彼らは、人を診ないで薬ばかりをよこす。この薬を飲んでもあの薬を飲んでも、息子は良くならないという感じだったけれど、遂に僕たちは何が悪かったのかを突き止め、息子は治った。副鼻腔炎だった。手術を受けたら、一気に調子が良くなったよ。 自分の子供が病気になるということは、まったくもっていい気分ではない。自分の人生すべてが息子に集中しているようなところもあって、息子が回復した今、僕も気分がいい。学校を卒業した息子の新しいページがめくられ、僕にも余裕ができて、自由があり、気分が軽くなったと感じている。そして新作の曲は、これらすべてを反映しているし、バンドのスピリットも戻ってきたよ。 今、バンドのメンバーはみんな本当に幸せで、集中しているけど、まだやり残したことがあるような気がする。トラヴィスは世界最高のバンドの一つだと思う。世界最大のバンドではないかもしれないけど、最高(Best)と最大(Biggest)では意味が違う。最大のバンドになれるかもしれないけど、僕はそれを望まないし、まずは最高のバンドにならなきゃいけない。それが僕たちのバンドだと信じているし、もっと多くのバンドが、最大のバンドになる前に最高のバンドになろうとすべきだと思う。 僕らのキャリアは、エベレストの頂上まであと少しだった。でも、ニールが首の骨を折ってしまい、僕たちは立ち止まらざるを得なかった。あの時「こんなのダメだ、こんなの僕たちのためにならない」と、バンドのことや、家庭を持つことなども話し合った。あれから、あっという間に時間が経った気がするけど、僕たちはまだここにいて、タンクにはまだガソリンが残っているような気がするんだよ。 ─そんなに長い間、マネージャーとの間に問題があったとはまったく知りませんでした。アルバムも来日公演も、いつも楽しませてもらっていました。が、あなた方自身は、常にモヤモヤを抱えていたんですね。 フラン:でもね、ステージに上がってショウをすれば、そんなことは忘れるんだ。ステージは神聖な場所であり、レーンの向こう側を歩けば、悩みはすべて消えてしまう。僕の仕事は歌うことで、それはまるで魔法のようで、歌えば自分も観客も幸せな気分になる。 今の僕は前しか見ていない。次のアルバムの計画はすでに立てているし、今後数年間の計画も立てている。何かを取り戻したような気がして嬉しいんだ。次のライブに来てもらえれば、それが剥き出しになっているのがきっとわかると思うよ。 ─マネージャーが代わり、息子さんは回復し、バンドの状態もよく、あなた自身も新しいパートナーとの関係を築き……と、いいことづくめの中で制作された本作ということになりますが……。 フラン:次のアルバムは酷いものになったりして(笑)。冗談だよ。でも、通常、人生がうまくいかないときは、芸術はうまくいき、人生がうまくいくときは、芸術はうまくいかないものだからね。 ─確かにそれは言われますが、そうならないことを信じて。で、本作に関しては、幸せづくめの一方で、病気で早逝した親友(トラヴィスのMV監督などを務めたリンガン・レッジ)に捧げられてもいます。私は、まだ親友を亡くしたことがなく、それを考えるだけでも辛いです。あなたは、どんな思いをアルバムに込めたのですか? フラン:彼はとても面白くて、とても優しくて、とても才能に恵まれていたんだ。身近な人が亡くなるときって、死が僕らの前を通り過ぎる。まるで幽霊が通り過ぎるかのようだよ。通り過ぎながら、友達の肩に触れて、連れて行ってしまうような……。でもね、彼が亡くなってから時間は経つけど、とても身近に彼を感じるんだ。あのときは彼が死ぬ番だったし、僕も彼のすぐ後ろにいて、キミの死もそう遠くない、僕たちはいつかみんな死ぬんだ、という感じかな。僕は死ぬことをまったく恐れていないよ。楽しみではないけど、恐れてもいない。 ここに込めたメッセージは……日本には同じようなことわざがあるかどうかわからないけど、スコットランドにはビッグバンを意味する「あなたは長い間地中にいる」ということわざがあるんだ。40億年の間に生まれ、生き、そして永遠にそこにはいない。ほんのわずかな時間だけここにいて、死んで、そしていなくなる。そういう、自分の人生はほんの一瞬だから、大切に生きていこうというメッセージを送りたかった。特に「Alive」には、その気持ちが強く込められているよ。