『子持ち様』大歓迎!子供の発熱・習い事送迎で中抜けOK!コアタイムなし!スタートアップ企業の狙いとは?
幼い子供を持つ親を『子持ち様』と揶揄する書き込みが、SNS上で広がり議論を呼んでいる。背景として、子育て世代が少数派になっていることや、社会や企業の構造や制度上の問題が指摘されている。そのような中、メインに働く人の8割が子供をもつ女性というスタートアップ企業がある。一体どのような働き方なのか、子供向けオンライン教育で日本最大級のプラットフォームを展開する、キッズウィークエンド株式会社代表取締役兼CEO三浦里江さんに話を聞いた。 -『キッズ-』ではどのくらいの割合で子供を持つ方が働いているのでしょうか。 「メンバー20名の中、メインで働いている8割が子供を持つ女性。その方々は全員リモートワークです」 -今話題となっている、いわゆる『子持ち様』を多く採用したのは何か狙いがあったのでしょうか。 「狙った部分と、そうせざるを得なかった二つの理由があります。狙いとしては、私たちの子供向け教育サービスを、初めに使うかどうか判断するのは親御さん。実際に『どのようなアピールをしたら使ってくれるか』という戦略を練られる方々に協力してもらっています。 創業の背景として、私自身、過去に金融機関で働きながら子育てする難しさを感じ、退職した経験があります。子供を持ちながらキャリアを積み、一方で子供の教育もしっかりと行える…両方できるように支援したいというところから起業しました。そこから同じような悩みを抱えているお母さんたちと一緒に作ったほうが、響くものになるんじゃないかと。 一方で私たちはベンチャー企業。金銭的に何人ものフルタイム雇用は現実として難しい状況でした。しかしオンライン勤務が普及し、出社が制約として外れました。常に張り付いている仕事でもないので、働ける時間を使って協力して頂くという形が、一番やりやすかった。お母さんたちも『そういう働き方がやりやすい』と。双方の事情がマッチした形です」 -それでも子供に何かあった場合、仕事を休まざるを得ない。その点の工夫は? 「子供を持つ方が多いので、皆さん理解があります。誰かが被害者になる、という意識はほとんどないと思います。『このメンバーはここの時間は働ける』『この時間は保護者会があるのも当たり前』といったことを皆さんが認識。じゃあ『働ける時間はどのように業務を進めようか』『休んでしまったらお互いカバーしようね』という対応策を、スムーズに受け止めてくれる環境にあります。また出社しなくていいので、子供の看病をしていても空いた時間で業務を進めてもらえます。 Slackという仕事用のメッセージアプリも使っているので、いつでもどこでもメッセージをやりとりできる。ルールをガチガチに強いているわけではなく、コアタイムすら設けていません。ある程度『これはあなたの仕事』と仕事単位で進めてもらい、進捗状況を管理する方法にしています」 -私自身、数カ月キッズウィークエンドで働いた経験がありますが、子供が発熱してもすぐにSlackで報告し合い、スケジュールを調整。オンライン会議も子供連れOKだったので、仕事に集中できました。子供の習い事の送迎も、気兼ねなく報告し合っていましたよね。 「ただ難しさもあって、隣にいればすぐ会話で解決するようなことも、Slackでの文章のコミュニケーションになるので、業務スピードが落ちてしまう。いい人に働いてもらえる一方で、スピード感が失われてしまうので、そこをどう埋めていくか模索しているところです。 その一つとしてGatherというバーチャルオフィスを利用。業務時はGatherに入り、何かあればいつでも話しかけられる。社内の会議もほとんどGatherで行います。Zoomなどのオンライン会議を設定する手間も省け、すごくスムーズです。 テキストでのコミュニケーションが主体だと、対面では問題ないことでも齟齬が生まれ、ちょっとしたズレを放置しておくと、大きなズレとなってしまう。そうなると、そのズレを修正するためのコミュニケーションをとること自体に、時間がかかってしまう。いくらGatherを使っても、基本的にはテキストになるので、コミュニケーションとスピード感の難しさは感じています」 -「子持ち様」論争について思うことはありますか? 「立場が違えば意見が違うのは当たり前。子育て世代としては、発熱した子供の看病は当たり前で、仕事を休まなくてはならない現実がある。一方、仕事を引き受ける立場としては、揶揄するようになる気持ちもわかります。それぞれの立場で言いたいことがあるのは仕方がないけれど、結局子供を育てるって、みんなの未来を支えているわけじゃないですか。子供達は今働いている人が高齢者になった時に社会を作る担い手になりますよね。ここがいなくなったら、みんな生きることができません。 お互いが今だけを考えるのではなく、もっと自分の将来や日本の未来に関係ある自分事として、長期的な視野で捉えて寛容になってくれたら。確かに仕事の負担が偏ってしまうこともあるけど、子供がいる家庭は、子供の世話の時間や教育費など子供に関する色々な支出があり負荷も結構あります。親だから、親じゃないからではなく、みんなで未来を創る子供を支えていく、という風潮になればいいな、と。そうなれば相手を傷つける発言をしない、お互い思いやって優しい社会になっていくのでは、と思います」 -そのような理想の社会になるために、必要なことは何だと思いますか? 「今は子供と大人の世界、ビジネスの世界が断絶されている気がしています。弊社の取り組みでは、子供と大人が当たり前に共存する空間を作り、学校が休みの日に子供が会社に来て、仕事をしている親の隣で宿題をやったりしています。子供にとっては大人が真剣に仕事する姿を見る事になり、子供のいない方にとっても『確かに親って大変だよね』という理解にもつながる。そのような立場の理解を促す取り組みを社会全体で取り入れたり、また企業自体がもう少し子供の教育に入り、子供が仕事に触れる体験を増やし、大人と子供の世界の断絶の壁を減らしていくこと。家庭単位ではなく、社会単位で大人も子供も、まみれて当たり前みたいな世界が出来ていくといいな、と思います」 インタビューの中で「埋もれていた能力のある人材を確保できたこともプラスの面の一つ」と三浦さんは語っていた。「子持ち様」論争は人口減少が予測され、各業界で人手不足となっている今の日本において、どのような働き方が必要とされるのか考えるきっかけになりうるのではないだろうか。 (デイリースポーツ特約・遠藤萌美)