残されたゲノム・データから迫る なぜ滅びた?氷河期の盛者マンモス
地球上の生命誕生が約40億年前。それから現在まで、幾多の生き物が、絶滅の歴史を歩みました。しかし、なぜ地上から姿を消すことになったのか、多くの場合、原因は解明されていません。今回は氷河期を代表するマンモス絶滅のなぞをテーマに、古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、最新研究について報告します。 北米アラバマの池尻博士が報告:白亜紀末大絶滅はなぜ起きた?(上)-“化石記録”ミステリーの歴史 ----------
マンモスは何故絶滅したのか?
「娑羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、 盛者必衰の理(ことわり)をあらわす。」 平家物語の冒頭の一節を前に私が感じるのは、琵琶法師がどのようなメロディーで、この壮大なストーリーを唄ったかではない。(当時としてはかなりヒップホップだったのではないだろうか?) 氷河期時代に盛者のごとく大繁栄を遂げ、そして必衰の理にならうかのように絶滅した「マンモス」の姿だ。 独特の美しい曲線をえがいた長い牙(タスク)は、現生のアフリカ象やインド象とものとも一線を画す。長い体毛に覆われた種(ケナガマンモス:M. primigenius)や肩の高さが4.5メートルにも及んだ種(コロンビアマンモス:M. columbi)など。氷河期時代に登場した多数の大型哺乳類の中でも、群を抜いて我々の興味をひきつける、生物史上ユニークな存在だ。 マンモス属(Mammuthus)はトータルで10から14種ほどが知られている。(注:研究者によって種の定義が異なるケースがある。)巨体メンバーで構成された大群は世界各地を文字通り席巻した。アフリカ大陸を皮切りに、比較的寒冷なユーラシア大陸、北米から温暖な気候の南米大陸にまで進出した。そのスケールの大きさは、かつての平家一門、ジンギスカンやアレクサンダー大王の大軍でさえとうてい及ばない。スター・ウォーズのテーマ曲ともに銀河系の彼方(かなた)まで進出しそうな勢いだ。 しかし全てのマンモスの種が巨体を誇っていたわけではない。いくつか小型種の存在も、特に孤立した島において知られている。例えば北米西海岸のコビトマンモス(M. exilis)やギリシャのクレタ島から見つかったM. creticusの成体は、体高が約1.5mくらいにまでにしか成長しなかった。現生のインド象の赤ちゃんか幼体ほどのサイズにすぎず、成人男性の肩にようやく届くほどの高さだ。 こうした化石記録をみてみると、解剖学上そして進化上、マンモスはかなりの多様性を遂げていたようだ。さまざまな環境に適応していたとも言えそうだ。 最古のマンモスが約400万年前頃のアフリカ大陸に現れて以来、最後のマンモスの個体は地質年代において、つい最近―なんとわずか約4000-4500年前―まで生きていた。約6600万年前の中生代終焉の恐竜や、約2.5億年前のペルム紀末大絶滅などの原因が、いまだに複数の仮説とともに、活発な議論の対象となるのは理解できる。しかし生物史・地球史上これだけ最近の時代まで生存していたにもかかわらず、マンモス絶滅の真相は、いまだに謎のベールに包まれている。近縁の種であるインド象、そして遠い親戚にあたるアフリカ象が、現在も生きのびていることを考えると、マンモス絶滅の原因はさらに不思議さ・神秘性を増す。 ちなみにマンモス絶滅の主な原因の仮説として以下のものがある。 (1)狩猟説:人類による乱獲。石器など高度な狩猟技術の進展も見逃せない。 (2)気候の大変化説:長く続いた氷河期が突然おわり、グローバル規模での温暖化が進んだ。 (3)伝染病説:人類が不運にも持ち込んだサプライズによる、壊滅的な被害の可能性アリ (4)隕石衝突説:最新の学説による。さまざまな証拠が提出されている。 それぞれに興味深くどれも信憑性があるが、一方、いくらか反論する余地も残されているのも事実だ。ここではスペースの都合上、詳細はあえて省かせていただく。しかし複数の原因がからみ合って大絶滅を引き起こした可能性も忘れてはならないだろう。