残されたゲノム・データから迫る なぜ滅びた?氷河期の盛者マンモス
ゲノムデータに基づくマンモス絶滅の仮説
3月2日付けのPlosONEというオンライン学術雑誌にマンモス絶滅に関する興味深い論文が発表された。(論文のコピーはこちらでダウンロード可能) Rogers RL, Slatkin M (2017) Excess of genomic defects in a woolly mammoth on Wrangel island. Plos Genet 13 (3):e1006601. doi:10.1371/journal.pgen.1006601 カリフォルニア大バークレー校のRogers博士とSlatkin博士は、複数のマンモス個体のゲノム・データを比較した。ゲノムとは生物個体における全ての核酸上の情報の総体をさす。例えばヒトの体細胞は約60億個の塩基対(注:グアニン-シトシン等G-C及びA-T/Uの組み合わせ)をゲノムの中にもっているそうだ。アフリカ象のゲノムは(ペンシルヴァニア州立大のマンモスゲノム研究チームのデータによると)42-48億近くの塩基対から構成されており、マンモスにおいて約半分くらいのものがとりあえず判定されているとの報告がなされている。こうした塩基対の組み合わせパターンが、生物にとって遺伝子情報の鍵となる。 膨大な数の遺伝子を含む完全なゲノム解析を行うのには、かなりの時間がかかる。一つひとつ記録するコンピューターの装置も必然的にかなり大掛かりなものになる。一般の家庭で使われているようなコンピューターではとても間に合わない。 ゲノムデータは2頭のマンモスの個体からだ。一頭目は、まずマンモス最盛期にあたる45,000年前、ユーラシア大陸本土産の個体標本のものだ。当時は非常にたくさんの個体が生息していたと考えられている。もう一頭は絶滅直前にあたる約4,300年前のもので、北極圏に面したロシア北東部に位置するウランゲリ島(The Wrangel Island)のものだ。この島におけるマンモスの個体数は、その当時約300頭くらいまでに下がっていたと推測される(かなり少ない)。生殖範囲(エリア)と種の個体数の関係は、遺伝子のヴァリエーションを研究する上で、非常に重要とされる。マンモスの個体群(population)の間において、何か特別な遺伝的な欠陥や特別な変化が起こり、直接絶滅へと向かわせた可能性がなかったかどうか、探ってみることができる。 マンモスは世界各地からたくさんの化石が知られてる。その多くは骨格化石だが、いくつか全身凍りづけの標本が、シベリアなどから発見されている。軟組織に当たる皮膚や筋肉などがなんときれいに保存されているのだ。そのためマンモスはDNAなどのデータを、直接化石種から手に入れることができる、古生物学上、ユニークな存在といえる。ちなみにゲノム解析に用いられるのは、さまざまな要素や諸条件により「体毛」とのこと。