「うまくなるな」寺山修司の教え 高橋ひとみが40年以上第一線で活躍する訳
結局、寺山さんの劇団に所属していたわけでもなく、舞台にも1度しか出ていないので、稽古をつけてもらった経験はほとんどありません。ただ、デビュー作の初舞台の日に贈られた言葉は、私の宝物としていつも胸の中にあります。 ── どんな言葉だったのでしょうか? 高橋さん:初舞台の初日に、寺山さんからいただいたスクラップブックに書かれていたのが、「うまくなるな」「体をつねに鍛えろ」「いいライバルを見つけろ」「本を読むこと」「いいものを見ろ」という5か条です。
──「うまくなるな」とは、どういう意味だったのでしょう。安易なテクニックに走っていけない、ということですかね…? 高橋さん:そういう意味もあるでしょうね。簡単に上手になってはダメだというか、「小器用になるな」ということだと思うのですが、なかなか難しいなあと感じます。いまだにきちんと理解できているかわかりません。 スクラップブックには稽古中の写真や舞台ポスターを縮小したものが貼られ、詩まで書いてくださって、すごく心のこもった贈りものでした。「天井桟敷」は海外公演も多く、海外から手紙や葉書もたくさんいただきました。もちろんいまでもすべて大切にとってあります。
寺山さんと過ごしたのはわずか3年でしたが、その後の何十年よりも密度が濃い感じがするんです。無償の愛をもらったのは初めてでした。 だから、その記憶から抜け出せず、その後、どんな愛情をもらっても「こんなんじゃないのよね…」と、物たりなく感じて、どんどんハードルがあがってしまいました(笑)。50代まで結婚しなかったのも、その影響が大きかったのかもしれません。 PROFILE 高橋ひとみさん 1961年東京都生まれ。1979年、寺山修司演出の舞台『バルトークの青ひげ公の城』で女優デビュー。83年に『ふぞろいの林檎たち』でドラマに初出演。現在まで数多くのドラマや映画、舞台に出演し、近年はバラエティ番組や情報番組などでも活躍している。2015年より、南アフリカ観光親善大使、19年より大田区観光PR特使を務める。現在、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演中。
取材・文/西尾英子 画像提供/ホリプロ
西尾英子