「うまくなるな」寺山修司の教え 高橋ひとみが40年以上第一線で活躍する訳
寺山さんは、よく行きつけの喫茶店で原稿を書いていらっしゃいました。その横に座ってじっと待ち、原稿が書きあがったら、公衆電話から新聞社に電話して、その内容を編集者に伝えるのが私の役割でした。 ── 寺山さんは、高橋さんになにを学ばせようとなさっていたのでしょう? 高橋さん:それがよくわからなくて(笑)。私としては、せっかくだから何かを教えてほしいわけです。だからあるとき、「この前に出演した映画で、東陽一監督はいろいろと指導してくれたのに!」と文句を言ったら、「あのね、学ぼうとしないからわからないんだよ」と、優しく諭されました(笑)。
■初舞台の日にもらった「5つの言葉」がいまも心の支え ── 寺山さんといえば、役者さんはもちろん、多くの人にとって、まさに憧れの存在。付き人のように時間を過ごしたのは、恵まれた環境ですよね。 高橋さん:寺山さんをものすごく尊敬している俳優の三上博史くんには、「なんて羨ましい…」とよく言われていました。 ただ、もしも私が「絶対に女優として成功してやる!」と、ギラギラするタイプだったら、そばに置いてもらえなかったかもしれません。女優という仕事に対して欲がなかったので、なにか言われても、「いいも~ん、別に!」なんて、生意気なことばっかり言っていましたから。
秘書の女性が寺山さんの資料本が入った重たい荷物を持つのを見て、「なんで自分で持たないの!」と言ってみたり。いま思えば、ただの子どもでしたね。 ── 物怖じしない子だったのですね(笑)。でも、そんなふうに接してくる人はいなかったでしょうから、逆に気楽だったのかもしれません。 高橋さん:私がどんなに生意気な口を聞いても、楽しそうに笑っていらっしゃいましたね。みんなでご飯を食べたり、遊びに行ったりと、和気あいあいと家族のような温かい時間をたくさん過ごしました。
わが家に大量に本を持ちこんで、本棚を作ってくださったことも。「女優になったら、お部屋公開の取材もあるかもしれない。そのときに本がないとカッコ悪いからね」と、みずからブックエンドまで買ってきてくれて。 「本屋さんに行くと、目線の高さの場所にはだいたい五木寛之の本が並んでいるから、せめて、ひとみの部屋の本棚の目線の高さには僕の本を、そして女優として演じる本、置いておいてカッコいい本で埋め尽くそう」と、ご自身の本を並べる姿が、いまでも懐かしく思い出されます。