「まだまだテレビも捨てたものではない」…ドラマ『ライオンの隠れ家』はなぜここまで支持されたのか
ドラマがあぶりだした発達障害の「家族の苦悩」
放送終了後もSNSなどで「ライオンロス」と惜しむ声があがっているTBSドラマ『ライオンの隠れ家』。発達障害を語る際に、これまでは「脇役」でしかなかった「周りの家族」にも焦点を当てたこのドラマだが、なぜここまで支持されたのか。『発達障害と少年犯罪』の著書もあり、テレビ東京で長年、ドラマ・プロデューサーを務めた桜美林大学芸術文化学群 教授の田淵俊彦氏が考察する。 真っ赤なコート姿にゴージャスドレス…年末年始、圧倒的に目立っていた長澤まさみの”美”にうっとり ◆「自閉症スペクトラム障害」…難しいテーマに真っ向から挑んだ意欲作 ’24年10月クールの私のなかのNO.1ドラマは、文句なしにTBS系の『ライオンの隠れ家』だ。公式HPの内容を要約すると、あらすじは以下の通りである。 市役所に勤務している小森洸人(柳楽優弥)は、自閉スペクトラム症(「自閉症スペクトラム障害」とも)の弟・美路人(坂東龍汰)と二人で凪のような平穏な日々を過ごしていたが、ある日、兄弟の前に突然「ライオン」と名乗る男の子(佐藤大空)が現れる。ログラインは「どんな境遇でも大切なものを守るために必死で生きる人たちの家族愛や兄弟愛を描くヒューマンサスペンス」となっている。 私は社会派ドラマが好きで、どうしてもテレビドラマには「ハラハラドキドキ」感を求めてしまうが、このドラマはいつもの好みとは系統が違う。だが、最終回を観終わっても感慨深くこころに残る余韻を楽しんでいる。 ネットなどでは、番組を称賛する記事が多く目立ち、なかには視聴者の間に「ライオンロス」が生じているとまで述べられている。 なぜ、このドラマはここまで支持されたのか。この論考ではそれを深掘り検証してみたい。私は以下の2つの要素が作品を「オンリーワン」の存在にしたと考えている。 ①「自閉症スペクトラム障害」という難しいテーマに真っ向から挑んだこと ②キャストの演技が素晴らしかったこと ①の「自閉症スペクトラム障害」という難しいテーマに真っ向から挑んだことが視聴者の支持につながったと考える理由は、私が日本テレビ系のドキュメンタリー「NNNドキュメント」で『障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件の間に~』という番組を作ったことが関係している。 放送後には『発達障害と少年犯罪』という書籍を執筆したが、いまも多くの自閉症スペクトラム障害(以降、「ASD」と略す)の当事者の方やその親御さんから手紙や連絡が寄せられる。 ASDは発達障害の一種である。そして、ドキュメンタリー『障害プラスα』のナレーターを務めていたのが『ライオンの隠れ家』の主演の柳楽優弥氏だった。そういった縁もあって、見る前から「ASDをどう描くのだろうか」と心待ちにしていた。 ◆「サスペンス」⇒「ヒューマンストーリー」に… ドラマは、ログラインにあるように最初はサスペンスタッチで始まり、途中までは失踪した姉の謎や父親からの虐待が縦軸となっていた。 そのため、視聴者のなかには「このドラマはサスペンスものだ」と思うという、いわゆる「ミスリード」された人もいたのではないだろうか。そういった意味では、このドラマは「よい裏切り方」をしてくれた。後半は、本来ドラマが目指していたであろう方向にしっかりと舵を切ってくれたからだ。 ドラマが、そして制作者たちが、ASDという難しいテーマに真っ向から挑んだことにまずは拍手を送りたい。 自著『発達障害と少年犯罪』を読んでいただいた方はおわかりだろうが、この書籍は「発達障害が少年犯罪に結びつく」と言っているものではない。発達障害は周囲の環境によっていい方にも悪い方にも転んでしまう特性があることを指摘している。 だが、発売当時はタイトルだけを見て「発達障害と犯罪を結びつけるのはナンセンスだ」という意見も多く寄せられた。しかし、実際に書籍を読んだASDの当事者からは多くの賛同の声をもらっている。 最近も大学の私宛に丁寧な手紙が届いた。ASDを抱える当事者からだ。その方は将来、少年犯罪の更生に関わる仕事をしたいと考えて勉強している。私の本を読んで「自分と犯罪を犯してしまった少年たちに似た点が何点かあり、他人事ではないと思った」という。 「子どものころに親どうしの喧嘩を見させられていた」ことや「父親の言葉の暴力が自分の発達障害の症状に影響しているのではないか」といったことを告白してくれ、「でも、母の大きな愛情があったから私はここにいる」と書いている。そして、「そういった気づきや発見、そして共感を与えてくれたこの本に感謝します」と手紙の最後を括っていた。