世界同時株安、一部の金融関係者がひんやりと思い出した「LTCM破綻」と今回の暴落の「あまりにも類似する」正体
環境も国も早いピッチで変化するが、「人が取る行動」はほぼ変わらない
こうした動きに輪をかけたのが、ファンドマネジャーたちの投資行動でした。 破綻するまでの数年間、LTCMは高パフォーマンスの象徴でした。四半期や年度の数字で評価されるアクティブファンドマネジャーたちは割高だとわかっていても敢えてロシア国債を保有していないと、ベンチマーク(運用の基準)に負けてしまいます。 同業他社に負けると運用資産が減少し、ファンドマネジャーたちは職を失います。パフォーマンスを求める結果として、業界全体のポジションがLTCMに類似していきました。そして破綻。「火事だ」と劇場で誰かが叫び、全ての観客が出口に殺到する世界線です。 そう、ドライかつプロフェッショナルに見える巨額の資産運用も、実は感情に大きく左右され、また相互の同調圧力が強く効く世界なのです。背景にあるのは人の原始的な感情、欲望と恐怖です。今回の真相は単なるレバレッジの解消でしょう、しかし恐怖は人を突き動かしました。 さて、ここまで私の前歴の話をしましたが、この連載は私が2人の娘に書籍を勧めるものです。アキ、ルミ、世界の暦は8月に入りました。暑い東京を避けて家族で一緒に軽井沢に行っていた頃は、2人とも小学生でしたね。 標高が1000メートルくらいで、だいたい東京よりも5度低い軽井沢ですが、東京が40度近くにまで気温が上がるようになったところ、暑い日にはクーラーが必要になったと聞きます。温暖化とヒートアイランド現象、どちらも10年前に予想していたよりも早く進んでいるようです。 今回紹介するのは、世界的な報道機関で国際問題に取り組んで来られた国谷省吾さんの『「戦争経済」に突入した世界で日本はどう生きるか』です。なぜこの本を選んだのか。
平和を謳歌する日本だが、戦争は世界のどこかで「常に」起きてきた
中学生の時、アキは夏休みの課題で戦争体験の聞き語りをしていたね。親類の中では適当な人が見つからず、人づてに語り部を探すのに苦労しました。第2次世界大戦が終わって80年が経過しようとする現在、日本では大人として戦争を経験した人はいなくなってしまいました。 この本は、軍事の世界から日本の現状を読み取ろうとする作品です。重要な点は、経済への影響にも言及しているところです。 一度は皆が撤退してしまった汎用半導体の生産に、日本が再度国策として取り組もうとするのはなぜか。軍隊を持たないことになっている日本で、軍需産業に関与する企業の株価が上昇しているのはなぜか。そんな素朴な疑問にも明快な回答が述べられます。 投資家としての僕にも興味がある話です。どちらも、なぜだと思いますか? 僕にとってはとっても納得のいく答えでした。今回の世界同時株安にも、演繹すればつながりが見えてくる内容です。お金と世界のパワーバランス、欲望と恐怖は恐ろしいほどに密接にリンクしていますから、あらゆることに興味を持つのはとても大事です。いらない情報などというものはこの世にないのです。 人がいない閑散とした東京証券取引所、いまでは値付けはコンピューターがしています。しかしその背後では欲望と恐怖が交換されています。恐怖が支配した市場、何千、何万という人々が投資をやめてしまうでしょう。8月5日に失われたお金の総量よりも、投資をやめてしまう人々が増えることが社会にとっての損失だと思います。 それでは、また チチより
投資家・文筆家 澤田信之