「ストロングマン」夢見る尹錫悦・トランプは本当に相性が良いのか
「(米国の政界関係者が)ずいぶん前から尹大統領とトランプ氏が『ケミ』が良いだろう(という)」(尹錫悦、大統領7日記者会見) 「(トランプと)尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領とはケミが良くないと思う」(共に民主党のイ・ジェミョン代表、10日国会) 化学反応を表す英語「ケミストリー(chemistry)」は、いつの間にか韓国では「ケミ」という略語として使われています。「人と人の相性」という意味が込められています。最近、尹錫悦大統領との「ケミ」に対する言及がかなり多くなりました。ドナルド・トランプ次期米大統領の帰還が、韓国の外交・安全保障・経済のすべての分野に多大な影響を及ぼす可能性があるからでしょう。 尹大統領とトランプ氏は本当にケミが良いのでしょうか。ケミが良いからといって「トランプ時代」の不確実な情勢に韓国が効果的に対応できるでしょうか。両首脳の関係によって韓米関係はもちろん、朝鮮半島情勢にも大きな変化が起きる可能性があり、関心が集まるのも当然かもしれません。 ■「ストロングマン」対「石を投げられても突き進む」 トランプ氏は自他共に認める「ストロングマン」です。ストロングマンは意思疎通と対話を通じて問題を解決する「政治力」よりは、決断を下しそれを突き進める「実行力」を優先する権威主義リーダーを指します。トランプ氏と過去にケミが良かった世界の首脳の多くもいわゆるストロングマンでした。第1次トランプ政権に加わったジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)は回顧録『トランプ大統領との453日(原題:The Room Where It Happened: A White House Memoir )』で、「トランプ大統領は世界の首脳の中で日本の安倍晋三首相、英国のボリス・ジョンソン首相と最も親しい」と綴りました。過去にトランプ氏が好感を示していた北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長やロシアのウラジーミル・プーチン大統領、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相なども独裁者の傾向を示す指導者です。 尹大統領も表立って「ストロングマン」を標榜するわけではありませんが、求める指導者像やリーダーシップはそれに近いかもしれません。これまでの尹大統領の言動や大統領室のPI(President Identity、大統領イメージ)戦略を見るかぎり、ドイツのゲアハルト・シュレーダー元首相、英国のマーガレット・サッチャー元首相などをロールモデルにしているようです。二人とも世論の反発を押し切って労働、年金改革など構造改革を押し進めた指導者です。 尹大統領は医学部の増員など4大改革の推進を繰り返し強調し、「政治的な有利か不利を問わない」、「容易な道を歩まない」、「私に任せてくださった召命」、「石を投げられても突き進む」などの発言を繰り返しています(しかし、シュレーダー元首相やサッチャー元首相と違って、尹大統領は「独断」という批判にさらされています)。このような点から、政界内外では尹大統領とトランプ氏のケミが良いと言われています。「思い付きで動く」傾向の強い二人の気質も似ているという見方もあります。 ■「イベント作成型」と「イベント作成型」が会うと しかし、両首脳が似ているため、むしろケミが良くない可能性もあるという意見もあります。大統領リーダーシップ研究院のチェ・ジン院長は、態度と対応方式で指導者のタイプを分類した米国の哲学者シドニー・フックの理論を引用し、両首脳とも「イベント作成型(Event-making type)」だと説明します。イベント作成型とは本人が流れを主導しなければならず、強く自己主張をする特性を持っています。 チェ院長は、「トランプ氏は交渉して妥協し、駆け引きをするスタイルではなく、強く自己主張をするスタイル。尹大統領もやはり本人が先頭に立って陣頭指揮し、解決していくスタイル」だとし、「互いに衝突したりぶつかる可能性が高く、この過程でややもすると大国である米国の力に押されて巻き込まれていく可能性があるが、その点が心配だ」と語りました。 さらに、トランプ氏にきちんと対応するためには「行政家型」が必要だという見解を示しました。「同じスタイルでぶつかっては勝てない。トランプ氏のような人と効果的に付き合うためには、慎重な交渉家として、感情をコントロールしながら用意周到に扱える行政家型で対応しなければならない」とし、「金大中(キム・デジュン)元大統領のように徹底的に準備・分析し、事前に用意した言葉と戦略で冷静に対応しない限り、トランプ氏の嵐のようなスタイルには巻き込まれる恐れがある」と語りました。ところが、「行政家型」は尹大統領のリーダーシップとはかなりかけ離れているタイプです。 ■「ケミ」や「ゴルフ練習」より必要なのは そのような中、尹大統領のゴルフが物議を醸しました。大統領室は、安倍元首相とトランプ氏の「ゴルフ外交」に倣い、尹大統領が8年ぶりにゴルフクラブを手にしたと発表しました。ところが、共に民主党は「尹大統領は8月から今月9日まで7回ゴルフをした」として「嘘」だと反論しています。 海外メディアも尹大統領の「ゴルフ外交」に注目しましたが、関連報道を見ると「ゴルフ外交」が万能薬ではないという視線が感じられます。ロイター通信は12日、尹大統領とゴルフ外交を取り上げ、「両首脳が今後、強力な関係に発展する可能性はあるが、韓国が(トランプ時代の)否定的な影響から抜け出すには、それでは十分ではないだろう」とするヘリテージ財団のブルース・クリンガー上席研究員の指摘を引用しました。同通信はさらに「多くの指導者が安倍元首相とトランプ氏が結んだ友情を真似しようと努力するだろうが、(両首脳の)個人的な関係が日本に明確で立証された利益をもたらしたという証拠はない」という元中央情報局(CIA)アナリストの評価も伝えました。 結局、重要なのは「緻密で落ち着いた準備」という基本を守ることです。世宗研究所のキム・ジョンソプ首席研究委員は、「陣営外交、価値観外交路線を固守することは難しくなった。米国が自国の国益を優先する外交を展開するように、私たちも国益の観点で対処しなければならない」としたうえで、「早く会うよりも、韓国政府の立場がきちんとまとまってから(トランプ氏に)会うことが重要だ」と指摘しました。 イ・スンジュン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )