食べ物を制限せずに健康になれる、「直感的な食事法」と「マインドフルな食事法」とは
マインドフルな食事法の利点
これに対し、マインドフルな食事法では、食べるという体験や食べ物の感覚的な特徴に意識を集中させる。そのためには、気を散らすものがない環境で食べることが重要だ(テレビやスマートフォンを見ながら、あるいは仕事をしながら食べてはいけない)。また、食べることに伴う身体的・感情的な感覚を、良し悪しの評価をせずに意識する。 マインドフルな食事法は、多くの健康上のメリットと関連がある。2024年3月号の学術誌「Cureus」に掲載された研究では、マインドフルな食事法を実践している2型糖尿病の患者はBMIだけでなく、約3カ月間の平均血糖値を反映するヘモグロビンA1c値も低いことがわかっている。 2022年3月に学術誌「Eating and Weight Disorders」に掲載された論文によると、マインドフルな食事法は、感情が引き金となる摂食や、制御のきかない摂食が少ないことと関連しているという。 「加えて、マインドフルネスな食事法が脂質状態、血糖値の調節、体内の炎症といった重要な健康指標の改善と関連している可能性を示唆する証拠も、少ないながら存在します」と、米ロサンゼルスで活動する臨床心理士ダニエル・キーナン・ミラー氏は言う。「この食事法に、生物学的なデメリットはありません」
食事のしかたを変えるには
これらの食事法を実践するにあたっては、自己流では難しいケースもある。摂食障害を抱えている人は、心理療法士や栄養士と一緒に取り組むのが望ましいと専門家は言う。摂食障害がある人は、満腹感がどういうものかがわからないからだ。 そうした事情がない人たちの場合、直感的な食事法を始めるための第一歩は、食べ物に対する「良い」「悪い」といった概念を捨て、「すべての食べ物を、罪悪感を持つことなく食べる許可を無条件に自分に与えること」だとマーシャル氏は言う。「それぞれの食べ物が自分の肉体にどのような感覚を与えるかを考え、味覚と体のニーズを満たす食べ物を選びましょう」 食事中は、体の空腹感と満足感のシグナルに注意を向け、1(非常に空腹)から10(過剰に満腹)までの段階で評価するとよいと、米クリーブランド・クリニックの臨床心理士スーザン・アルバーズ氏は言う。満腹感ではなく、心地よい満足感を感じたなら、そこが食事をやめるのに適したタイミングだ。 この考え方は、地球上で最も健康的な食事法のひとつと考えられている伝統的な沖縄食の概念にも似ている。沖縄などで実践されている「腹八分」の習慣は、お腹が八割方満たされた時点で食べるのをやめることを勧める。 マインドフルな食事法では、「何を食べるかよりも、どのように食べるかに焦点を当てます」とアルバーズ氏は言う。そのためには、ゆっくりとよく噛んで食べることが重要だ。たとえば、一口食べるごとに箸やフォークを置いてみるのもいいだろう。 「食べ物の味、質感、香り、音に注意を払うことが、食事の楽しさを増してくれます。肉体的、あるいは感情的に満たされたと感じたかどうかを意識し、それを合図に食べるのをやめましょう」 食事のしかたを変えるには、時間、実践、忍耐が必要となる。「これは長期的な実践を目的としたものですから、ゴールというよりも方向性として捉えるといいでしょう」と、米ノースイースタン大学摂食・外見研究のための応用心理学プログラム(APPEAR)の責任者レイチェル・ロジャーズ氏は言う。 多くの人が、マインドフルな食事法や直感的な食事法では食べ過ぎてしまうのではないかと恐れて二の足を踏むと、マーシャル氏は言う。 「興味深いことに、事実はその逆であることが研究で示されています。食べ物に制限を課す食事法は、禁止された食べ物の食べ過ぎにつながることがよくあります。食べ物の制限をしなければ、人は好きな食べ物を満足するまで食べ、過食の衝動が弱まります」 もうひとつのよくある障害は、食べ物を無駄にすることへの恐れだ。「多くの人が、子ども時代にお皿の上のものを全部食べなさいと教わります。その結果、満腹になっても、義務感から食べ続けてしまうのです」とマーシャル氏は言う。 これを克服するうえで大切なのは、満足したら食べるのをやめ、残り物は取っておいてあとで食べるのを自分に許すことだ。そうすれば、食事を何度でも、マインドフルに楽しむことができる。
文=Stacey Colino/訳=北村京子