与野党激戦の山口2区、勝敗の分かれ目は周南市 区割り変更、有権者最多【焦点区を歩く 2024年衆院選】
22日夜、山口2区の自民党前職岸信千世(33)が周南市のホールで開いた演説会。山口1区に立つ同党前職高村正大(53)が登壇すると、かつての支援者たちが沸いた。 2024年衆議院選挙・山口1~3区の立候補者一覧 区割り変更で全域が2区に入った同市は高村の地盤だった。旧徳山市長で衆院議員も務めた祖父、元同党副総裁の父から引き継いだ。「3代にわたって守られてきた大切な場所を(野党に)渡すわけにはいかない」。必死の形相で叫ぶ岸に切迫感がにじんだ。 自身の選挙区を空けて駆け付けた高村。終了後は岸陣営のミーティングに残り、スタッフを鼓舞した。「なぜ私がここにいるか考えてほしい。それくらいの激戦だ」 立憲民主党元職平岡秀夫(70)との一騎打ち。同じ2人が戦った昨年4月の旧2区補欠選挙は5768票差で岸が初当選した。周南市の有権者は新たな2区で最多の約11万5千人に上る。「周南が勝敗を分ける」―。両陣営の共通認識だ。 岸は昨年7月に同市に事務所を構え週末は行事に参加。高村後援会を引き継ぎ、首長や議員も支援する。ただ「岸と書いてもらう難しさはある」と関係者。高村の来援を起爆剤とする考えだ。 20日、岩国市での演説会には故安倍晋三元首相の妻昭恵が来援。岸の伯父の晋三、曽祖父の岸信介元首相らの名を挙げ「信千世君にもDNAが育っている」と語ると聴衆は盛んにうなずいた。世襲批判もつきまとう中、昭恵を招いたのは危機感の表れでもある。 22日午前、平岡は周南市の住宅街にいた。雨がぱらつく中、選挙カーを降りて支持者に歩み寄る。1年半前の補選時から履くスニーカーは底がすり切れている。「買い替える時間がなくて」と履き続けている。 2000年に旧2区で初当選し、比例復活を含め5度の当選を重ねた平岡。高校まで過ごした岩国市に支持基盤を持つ。 組織力で劣る周南市での浸透へ、この1年半は「どぶ板」に徹してきた。支援者や知人を訪ね歩き、知り合いを紹介してもらっては対話を重ねた。「千(人)は回った。万まではいかないが」と平岡。地域をはうように歩いた。 迎えた選挙戦。急な衆院解散だったこともあって他の野党は擁立を見送り、再び岸との戦いとなった。ただ野党が一枚岩とはいいがたい。 党中央が立民との「共闘見送り」を決めた共産党。補選では、無所属で立候補した平岡を「自主的支援」したが、今回は自主投票とした。国民民主党は静観。連合山口は推薦を見送り「支持」にとどめる。 街頭で自民党の裏金問題や世襲を批判し、旧統一教会の問題への言及を繰り返す平岡。政権への批判票をまとめきれるかが勝敗の鍵になる。 選挙区は米軍岩国基地(岩国市)と原発建設予定地(上関町)を抱え、国策との向き合い方が常に問われる。与党の若手と野党の元閣僚の攻防は接戦のまま最終盤にもつれ込んだ=敬称略。
中国新聞社