平泳世界記録保持者、山口、敗戦の意味
記録達成後の大スランプ
世界選手権競泳6日目の男子200m平泳ぎ決勝。2分09秒57で7位に敗れながらも、山口観弘はスッキリとした表情をしていた。 「平井先生との打ち合わせで2分8秒台がメダルラインだと言われていたが、力及ばずで終わったのは悔しいですね。でも決勝でタイムをあげられたから最低ラインのことは出来たと思うし、今の自分の実力は2分9秒5だということになると思います。ただ、短い時間でここまで持って来れたのはすごい自信になったし、これで少しは突破口が見えたのかな、と思います」 昨年の夏に2分7秒台の記録を連発し、9月の国体では2分7秒01の世界記録を樹立した山口だが、その後は先行してしまった記録の苦しんだ。秋から冬にかけての大会では、泳いでいて「世界記録保持者です」という場内アナウンスの声が聞こえるたび、「また言ってるよ」という気持ちになったとも言う。 練習では気持ちが入らなくなり、泳ぎも崩れた。 北島らを育てた“チーム平井”の練習には10月末から合流したが、指導する平井伯昌コーチから辛辣な言葉を浴びせられることも度々だった。 「他の人も同じことをやっているのに、何で俺だけ?」と思ったこともあったが、「自分が一番付き合いが長いから言いやすいのかもしれない」と、自分を納得させた。 4月の日本選手権では2分9秒31と派遣標準を突破して世界選手権代表を決め、復調の気配を見せた。だがその後は再び低迷し、6月のヨーロッパグランプリにも行けず国内で調整するしかなかった。そこから徐々に調子を上げてきたとはいえ、万全な状態でこの大会を迎えられたわけではなかった。 「彼の場合は、五輪代表でも世界選手権代表でもないのに世界記録を出してしまったから順番が逆なんです。そうなるとその後でキャリアを埋めていかなければならない。92年バルセロナ五輪で14歳で優勝した岩崎恭子ちゃんもその後すごく苦しんだと思うけど、それと同じなんです。世界記録を持っていながら世界選手権威初出場と言うのはどれだけ苦しいか…。だから僕は彼の今回の決勝進出と2分9秒台の泳ぎを褒めてあげたいし、リオデジャネイロ五輪までを考えても、すごくいい経験をしてくれたと思います」と平井コーチは言う。