謎の電波を発していた天体「パルサー」。宇宙精密時計ともいわれるその星の正体「中性子星」とはどんな星なのか?
超強力な磁力をもつ中性子星「マグネター」
中性子星は通常、磁場をもっています。これは、中性子星になる前の恒星(親星:おやぼし)が磁場をもっていたため、超新星爆発で中心部分が爆縮される際、その磁場が中性子星に残存したからだと考えられています。 ただし、中性子星の大きさは、もとの恒星に比べて5桁以上も小さくなります。そのため、磁力線の本数が保存されれば、単位面積を貫く磁力線の本数(数密度)は、おおよそ星の半径の2乗に反比例しますから、中性子星表面での磁力線の数密度は親星のものより10桁以上増幅される勘定となります。 こうして、中性子星の表面磁場はとても大きくなる特徴があります。 磁力の単位には「テスラ」があります。近年発見された中性子星のなかに、10の8乗から10の11乗テスラにもおよぶ非常に強力な磁場をもつものがあります。リニアモーターカーを浮上させる磁力でさえ1テスラになりません。この磁力がいかに強力かわかると思います。 このように強力な磁力を放つ中性子星は、「マグネター」とよばれています。
中性子星はなぜ電波を放っているのか!
この非常に強い磁場の原因は、親星の磁力線の圧縮だけでは説明できないため、現在も研究が続いています。 中性子星での実際の磁場の形状は非常に複雑ですが、ここでは簡単のため棒磁石で中性子星の磁場を表現してみましょう。 一般に、中性子星の自転軸と磁場の向き(地球でいえば、方位磁針でN極が指す方向)とは異なります。この状況は、棒磁石の場合、棒磁石を回転させたときの自転軸が、棒磁石の軸と一致しない状況に対応します。 図を見てください。右図は自転軸と磁場の向きが平行な場合です。棒磁石の自転軸が棒磁石の軸と完全に一致する場合、棒磁石が自転しても、周りの電磁場は全く変化しません。つまり、電磁波は発生しません。 左図のように、棒磁石の自転軸が磁場の向きからずれている場合は、周りの電磁場は時間変動します。これは、電磁波の発生を意味します。 この現象が、中性子星から送られてくる電波パルスの正体だと考えられています。 1967年にベルたちが捉えた未知の信号は、このパルサーからの電波信号だったのです。
電波の指向性はなぜ生まれるのか?
この棒磁石の自転モデルで発生する電磁波は比較的広い方向に放射されます。しかし、パルサーからの電波パルスは、もっと特定の方向に絞り込まれたものだということが知られています。この理由はなぜでしょうか。 実は、電波の方向を絞り込む物理機構は、まだはっきりと理解されていません。このように、中性子星はまだまだ謎だらけの天体で、中性子星の磁場の根本部分、つまり、磁場と中性子星の表面との相互作用の理解が待たれます。 ---------- ----------
浅田 秀樹(弘前大学 理工学研究科 宇宙物理学研究センター センター長・教授)