社説:保険証「廃止」 与野党で段階的修正を
健康保険証が週明けの来月2日から、新たに発行されなくなる。 政府は、手元にある保険証は有効期間内であれば最長1年利用でき、マイナンバーカードに保険証機能をもたせた「マイナ保険証」を持たない人や75歳以上の一部には、最長5年間有効の資格確認証が届くとしている。 当面は3種類の本人確認方法が併存することになるが、受付体制が十分でない医療現場もあり、混乱や受診への影響が懸念される。 国民に便利な保険証制度を拙速に組み替え、ろくな議論もないまま見切り発車で進める政府の乱暴さを非難する。相談体制の整備や実態の把握が欠かせない。 先の衆院選では大半の野党が、従来の保険証との併用を公約とした。あすからの臨時国会では、少数与党になった石破茂政権に対し、野党は結束して議論に臨み、短期と中長期的な保険証の在り方を再構築すべきだ。 マイナカードは国民の約75%が所持し、その8割は保険証登録を済ませているが、個人情報の漏えいや誤登録トラブルを踏まえ、マイナ保険証への不信は根強い。先月の利用率は約15%にとどまる。登録を解除する人も増えている。 保険証の廃止は2年前、当時の河野太郎デジタル相が唐突に表明した。保険証を取り上げる形で、「任意」であるカード取得を事実上義務化する強権的な手法だ。 本紙は社説で再三、方針撤回を求めてきたが、「自民1強」の中で岸田文雄政権が力押しした。 マイナ保険証は医師と患者、他の医療機関が投薬情報や受診記録などを共有できるようになる。 だが、現時点で共有できない情報があり、データ更新の時間もかかる。システムが不完全な上、医療側の読み取り機も未整備や不具合がみられ、患者は不便を強いられる面が大きい。 国民の理解と利便性の実感が進み、普及が広がるという手順を踏まねば、コストや関係機関の作業は増大し、政府のデジタル政策全般への不信感も高めよう。 来年3月には運転免許証機能を持たせた「マイナ免許証」の運用を始めるが、政府は現行免許証との併用を認める。ならば、保険証の併用もできよう。 先進国では個人情報保護の点から、行政分野ごとに異なる番号を使うのが主流という。 石破氏も、自民党総裁選で併用を「選択肢」と明言したはずだ。与野党は、無理な保険証停止を段階的に修正してもらいたい。