「ビルのオーナーなのになぜ交通誘導員の仕事を…」78歳シニア誘導員が驚いた、工事現場で懸命に働く「謎のお金持ち」
刺青がびっしり入った左腕
警察庁の発表によれば、全国の警備員の数は過去最高の58万4868人(2023年12月末時点)。このうち、70歳以上の働き手は最多の20.1%(11万7411人)を占めている。 【マンガ】工事現場でよく見かける「交通誘導員」はいくら稼げる?驚きの最高月収 高齢化が進む警備業のなかで主流をなしているのが、工事現場などで誘導灯を振り、歩行者やクルマを案内する交通誘導警備員(以下、交通誘導員)だ。 外で長時間立ち続けなければいけない交通誘導員の仕事は、現場を支えるシニアにとって過酷だ。 前回記事〈勤務中に「失禁」や「失神」も…78歳交通誘導員が目撃した、大勢のシニアが支える「過酷な交通誘導の現場」〉では、『交通誘導員ヨレヨレ日記』の著者であり、いまでも交通誘導員として働く柏耕一さん(78)がその実情を語っている。 「交通誘導員の仕事はドライバーからのクレームにもひたすら耐えないといけない」と柏さんはため息をつく。 「新規オープンする道の駅の駐車場で交通誘導したときは最悪でした。数百台停められる大きな駐車場だったのですが、その日はあまりの混雑で入るのに30分以上待つような状況だったんです。そしたら1台のセダンが出口のほうから入ろうとしまして」(以下、「」内は柏さん) 女性が運転するそのクルマの助手席には、いかにもガラの悪そうな男性がふんぞり返るように座っていた。柏さんがセダンの前に立ちはだかり制止しようとするも、クルマはジリジリと前進してくる。 たまらず「あちらの入口の列に並んでください!」と大声を張り上げた柏さん。すると、男性は助手席の窓をおもむろに開け、刺青がびっしり入った左腕を見せてきたという。
交通誘導員は喧嘩をしたら負け
「『うるせえよ、クソジジイ!』って怒鳴られましたよ。でも、この1台を許してしまったら、ルールを守って並んでいる他のドライバーからクレームが入る。なにを言われようが出口から入れるわけにはいかないんです。 こういった方たちは警察沙汰になるのを嫌う傾向にあるので、粘っていると諦めてくれることが多い。このクルマも最後は指示に従ってくれました」 悪質なケースはこれだけにとどまらず、交通誘導員の指示に腹を立てて「お前ら何様なんだ、警察呼ぶぞ!」と騒ぎ立てるドライバーもいるそうだ。なかには、強引に駐車場に入ろうとしたクルマが交通誘導員にぶつかってしまうこともあるという。 「ただ、どんなひどいことを言われようと交通誘導員はドライバーと喧嘩をしたら負けなんです。結果的に、交通誘導員を雇っている店や建設会社などのイメージダウンにつながり、迷惑をかけてしまいます。 でも、やっぱり人間ですから、我慢できない交通誘導員もいますよね。『お前、邪魔だよ』とドライバーに言われた誘導員が『うるせえな、この野郎』と言い返して問題になったこともあります。気持ちは分からなくもないんですがね……。おそらくこういったトラブルは毎日どこかの現場で起きていると思います」 ドライバーばかりが悪いわけではない。当然、交通誘導員がミスをおかしてしまうこともある。柏さん曰く、片側交互通行の誘導タイミングを誤って、クルマ同士が鉢合わせてしまうケースもあるそうだ。 「交通誘導員の集中力が切れがちな深夜帯の片側交互通行の現場では、もっと危ないケースもありました。交通誘導員の制止させるタイミングが遅れてしまって、ものすごい急ブレーキでクルマが止まったそうなんです。そしたらドライバーがむち打ちになってしまった。 ドライバーが言いがかりをつけようと思えばいくらでもできるとは思いますが、いまはどのクルマにもドライブレコーダーがついているでしょう。きちんとした訴えだったらすんなり認められるんですよ」