知名度はないが最も高性能だった1bit MCU、Motorola MC14500(人知れず消えていったマイナーCPUを語ろう 第14回)
Handbookに掲載されているOENの利用例がこちら(Photo04)。 要するにAとBという2つの値の論理積を取って、1ならパルスを2回、2ならパルスを1回出力するというものだが、論理積を計算して、その結果をOENに渡す。 もし論理積が1なら続く2回のSTO/STOCでパルスが2回でるが、0なら何も起きない。ついでRRの値を反転させてOENに渡す。すると続く1回のSTO/STOCは論理積の結果が1なら何も起きないが、0なら1回パルスが出ることになるという訳だ。 ちなみにJMP/ReturnとかNOPO/NOPFは、そこで何をするかは外部回路任せになっている。自由度が高いというか、単体では何もしてくれない仕組みである。 そんなMC14500Bであるが、先に示したMorley氏によるPLCの設計方針を非常に忠実に実装した構造である事が判る。 割り込み処理の機能はそもそも無いし、MemoryもDirectにMapping可能である(というか、そもそもMemory操作そのものを放棄している)。ソフトウェアは純粋にロジックだけを記述すればよい(というか、それ以外の事が出来ない)し、構造も簡単で堅牢と評しても差し支えない代物になっている。しかも遅い(笑)。 いや全ての命令を1cycleで処理できるから遅くは無いのだが、10KHzとかで動作できる商用CPUはそう多くない。処理はほぼ論理演算で、これはラダー回路をそのまま置き換えることが出来たし、この後出て来たラダー言語とも相性が良かった。 かくしてMC14500Bは1976年に発表されてから、1980年代を経て1990年代中旬頃まで広く使われた。
長く使われたが後継はなし
先にPhoto05で「1995年の時点ではまだ生産されていた」と書いたが、どうも1996年頃に生産中止となったらしい(最終出荷日は2000年2月)。 ちなみに1970年代にはPLCの世界では比較的ポピュラーだったらしく、1978年には産報出版から電子科学シリーズ No.81「マイクロプロセッサ(MC14500B, MC8085)シーケンス制御」(安居院猛、清弘智昭著)なんて本も出ていたらしい。 もっと言えば、既に生産はとっくに終了しており、Motorolaから分離したFreescaleを買収したNXP SemiconductorのサイトでもEOL(End of Life)のお知らせくらいしか情報が無いのだが、廃番製品を扱っているメーカーからはまだ購入できるあたり、まだ流通在庫が払底するところまでは行っていないらしい。 あるいは世界中探すと、まだMC14500Bを使ったPLCが現役で稼働しているところもあるのかもしれない。 なのだがMotorolaはこのMC14500Bの後継製品は用意しなかった。 1970年代にはMCUに色々突っ込んで複雑なものを作るより、最小限のコントローラの周囲にStandard Logic ICを組み合わせた方が確実かつ安価だったのだろうが、1980年代に入ってプロセスの微細化が進んだことで、もうワンチップでMC14500Bベースのシステム丸ごとを代替できるような機能が実現した。 また当初はPLCと言えばそれこそOn/Offが出来ればよかった訳だが、機器の制御が複雑化(上で温度制御を例に取ったが、これもPID制御とかが出てくると1bitではどうにもならない)してくると、MC14500Bの延長ではどうにもならなくなった。 Motorolaも1979年にはMC6809とかMC68000などを発表しており、これらを利用した方がより高機能なPLCを簡単に構築できる。 少量多品種の低価格向けPLCであっても、70年代はMask ROMの焼き付けコストが高価だったから敬遠されたが、80年代に入ってEPROMやEEPROMを搭載したMCUが登場、90年代に入るとFlash Memory内蔵MCUが投入されたことで、結局これらに代替されることになってしまった。 後継製品が出なかったのもむべなるかな、というところだ。 ただ1bit MCUという他にほとんど例がない製品のためか、MC14500Bを搭載したSBC(Single Board Computer)がまだ購入可能(パーツと基板込みだと49.00ドルだそうだ)だし、自分でSBCの基板を起こして、そのうえでゲームを動かしている強者もいたりする。ほとんど知名度はないが、恐らくもっとも高性能な1bit MCUであった。
大原雄介@TechnoEdge
【関連記事】
- 知名度はないが最も高性能だった1bit MCU、Motorola MC14500(人知れず消えていったマイナーCPUを語ろう 第14回)
- DSP登場までは超高速を誇ったSMS300/8X300(人知れず消えていったマイナーCPUを語ろう 第13回)
- 3年間の開発凍結がなければIntelと勝負できたかもしれないSignetics 2650(人知れず消えていったマイナーCPUを語ろう 第12回)
- ぴゅう太に連なるTI TMS9900プロセッサの行方(人知れず消えていったマイナーCPUを語ろう 第11回)
- 8ビットCPUの名機Z80の後継はなぜ失敗した? Zilog Z800/Z8000/Z80000の誕生と消滅(人知れず消えていったマイナーCPUを語ろう 第10回)