知名度はないが最も高性能だった1bit MCU、Motorola MC14500(人知れず消えていったマイナーCPUを語ろう 第14回)
MC14500Bのアーキテクチャ
さて、ここまでは長い枕でここからが本題である。 PLCが普及を始めたことで、コンピュータメーカーもこのマーケットに向けたシステムの開発を始めるようになる。 そんなPLCのマーケットに向けて、MotorolaのVern GregoryがPLC向けのワンチップマイコンを考案する。 実際の設計は同じMotorolaのBrian Dellande氏が行った。それもあって"MC14500B Industrial Control Unit Handbook"(Photo2)は2人の共著となっている)。 MC14500Bと名づけられたこのワンチップマイコン、筆者が記憶している限りは世界初の1bitマイコンである。 "1bit"の定義だが、Data Busが1bitしかない。 ただPLCというかラダー回路がそもそもそういうもので、OnかOffかの入力を受け、OnかOffかの出力を行うものだから、1bitで十分足りる。 ただそうなると「1bitでAddress足りるのか?」と思われるかもしれないが、実を言うとMC14500BはAddressの管理を自分では行っていない。 Photo04を見直してもらうと判るが、MC14500BにはそもそもAddress生成機能が搭載されていない。 Program Counterすら外付けチップ(MC14516B)になっている時点でお察しである。MC14500Bはこの図にあるように、4bitのLD(命令バス)経由で命令を受け取り、それを解釈して1bitのData Busに対して入出力を行う、以上のことは出来ない。 なかなかにキマった構成である。もっともこれ、要するに制御対象となるシステムの規模に合わせてメモリ構成とかを自由に変えられる(というか、システムに合わせて外部回路を設計する)ので、今の常識からすれば考えにくいかもしれないが、当時としてはこちらの方が低コストで目的の制御回路を構築可能だった。 動作周波数は最大1MHzであるが、最小は0まで落とせた。CMOSで製造されているものの、Static回路を取っていたものと思われる。 「0まで落としてどうする」と言われそうだし、実際に0まで落とすことはなかったとは思うが、製造装置の中にはゆっくりとした動きが要望されるものも少なくない。そこに1MHzとかで処理を行っても空回りするだけである。 Photo02にもあるが、例えば1MHz駆動だと60Hz電源のHalf-Cycle(つまり1/120秒)の間に8300命令以上を処理できるが、明らかにこれは高速すぎる。 MC14500Bは内部にクロックオシレータを内蔵しており、最大1MHz駆動であるが、外部抵抗の値を変化させることでこれを10KHz程度まで落とすことが可能になっている。こういう低速な動作でも安定して稼働するためにはStatic回路を利用した方が確実であった。
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