ダウン症の娘が教えてくれたこと 共生社会へ道筋描くソーシャルイノベーターの挑戦
生まれた娘がダウン症であったことはすんなり受け入れたという高橋真(たかはし・ちか)さん。しかし小学校に入学する時期になり、情報がない、誰に相談すれば良いのかわからない、どの選択がベストなのかわからないといった、多くの関門を乗り越えなければならなかった。 自身の経験を大学院の修士課程で論文にまとめ、同じ悩みに直面する親に向けたワークショップを開発して汎用(はんよう)性のある書籍として発売し、共生社会を学ぶことができるカードゲームも考案。多岐にわたる活動をおこなう高橋さんに、目指す社会のあり方について聞いた。(聞き手 朝日新聞SDGs ACTION!編集部・池田美樹) 【高橋真(たかはし・ちか)】 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。会社員として勤務するとともに、社会活動としてNPO法人アクセプションズ理事、共生社会が学べるゲーム「ワンダーワールドツアー」製作委員会代表、障がいのある子親のための小学校支援プロジェクト「みんなで就学活動」代表も務める。インクルーシブな社会の実現を目指し、ビジネス・学術・社会において幅広く活動中。
障害児が直面する就学問題
――共生社会が学べるカードゲーム「ワンダーワールドツアー」を開発、また障害のある子どもの小学校入学をサポートする「障がいのある子と親のための小学校就学サポートBOOK」の発行と、障害を持つ子どもたちと共に生きる社会を目指す活動をされています。 2人いる子のうち、下の娘がダウン症です。今は息子が中学3年生、娘は小学校5年生です。ダウン症は生まれる前にわかる場合もあるし、生まれてすぐにわかる場合もあります。我が家の場合、娘が生まれてすぐにダウン症の疑いがあると言われ、1週間後に検査してわかりました。 2人の子どもは区別なく育ててきました。ですが成長するにつれ、やはり選択肢が限られる場面も増えてきました。行く場所を選ばなければならないし、習い事をするにも一苦労で受け入れ先が少ない。同じ子育てなのに、ダウン症というだけでこんなにも制限があり、選択肢も少ないのかということはよく感じていました。 さらに制限が生じるのが就学時です。今の日本では、障害のある子は幼稚園や保育園は地域内で通うことが多いのですが、小学校に進学するタイミングで、地域の学校に行くのか特別支援学校に行くのか、特別支援学級に行くのか通級指導教室に行くのかなど、様々な選択をしなければなりません。 これまで一緒に過ごした友達と一緒の学校に行きたいけれど、近所の学校には特別支援学級がない。特別支援学校に行くと今までのお友達はいないし、兄弟が別の学校になってしまうなど、支援が必要な子を持つ保護者は様々な悩みを抱えることになります。 日本は国連の障害者権利条約に批准しており、障害があることによって区別することは違法であるという立場です。しかし、残念ながら学校教育の現場では、障害の有無で学ぶ場所が分かれるかたちになっています。これは国際的な流れとは異なり、日本は2022年に国連から勧告を受けています。 障害を持つ子どもの保護者は、どこの学校に行ったらいいのかわからない、自治体や学校とどうやり取りしていいかわからない、という点で苦労します。また子ども自身も、就学後は学校生活、卒業後は就労や住まいの問題など、成長とともに悩みの内容が変化するためノウハウが引き継がれづらく、相談できる人が少ないという問題があるのです。