【注目のクラッチレス機構を徹底比較・前編】ホンダ「E-Clutch」+CB650R/ホンダ「DCT」+CRF1100Lアフリカツイン
DCT:熟成を重ねてきた自動クラッチ/自動変速の「大御所」機構
【ホンダ・DCT】 試乗車:CDF1100Lアフリカツイン・アドベンチャースポーツES・DCT(価格:205万7000円/車重:253kg) ■STDモデルとの価格差/重量差:11万円/10kg ■特徴 マニュアルトランスミッションの構造はそのままに、クラッチ操作と変速操作を自動化した機構。1-3-5速/発進用クラッチと、2-4-6速クラッチの2つのクラッチ(デュアルクラッチ)を備え、電子制御によって、つながりのいい変速を実現。既存のエンジンをベースに「メインシャフトの二重化」「専用設計の直列配置クラッチ」「エンジンカバーに集約した油圧回路」などが採用されたDCTは二輪用に適したコンパクトさも追求しているが、重量はSTDより10kgほど重くなる。 ホンダでは、750cc以上のミドル~大排気量モデルを中心にDCT搭載車を拡大しており、国内販売車ではNC750X、X-ADV、レブル1100/T、CRF1100Lアフリカツイン/同アドベンチャースポーツES、ゴールドウイングに採用。クラッチは自動制御でつなぐ・切るを行い、レバーは非装備のため、大型自動二輪AT限定免許でも運転可能。 マニュアルモード(MTモード)での変速は左グリップ部でのハンド操作で、親指で押すボタンでダウン、グリップ向こう側のボタンを人差し指で押してアップ。またマニュアルモードでも、停止時には1速まで自動で下がり、速度の低すぎる割に高いギヤに入っている場合にもシフトダウンが自動介入。 またMTモードATモードを問わず、各種ライディングモードのパワー特性が反映され「TOUR」、「URBAN」、「GRAVEL」、「OFF ROAD」のほか「USER1」とUSER2」というライダーが任意で好みの設定をできる2つのカスタムモード)もあり、選択できるパワー特性は多様。 ■長所 2010年のVFR1200Fで初搭載された後、着実に進化しながら熟成されてきたDCT。初期のDCTのATモードでは違和感の出る場面もあったシフトアップ・ダウンの作動は、徐々に自然な変速へと進化。選択できる特性の多様化も実現している。そのためATモードでは、ライダーの意に沿わないシフトアップ・ダウンはほぼなく、変速時のショックもごく少なめで、操作から作動までのタイムラグも気になる場面はない。またATモード作動中にマニュアルボタンを操作し、任意にシフトアップ・ダウンを介入させることも可能。 MTモードでは、左グリップ部ボタンでのハンド操作だが、アップ、ダウンともに確実にタイムラグなく作動。また、足で変速操作もしたいというニーズにも対応して、試乗車のアフリカツインほか、ゴールドウイング、NC750Xに「DCTチェンジペダルキット」が別売りアクセサリーで用意されている。 ■短所 欠点のない機構ではあるが、マニュアルモード変速でのダイレクト感が希薄というのが個人的な印象。そのほか、アフリカツインに限って言えば、ライディングモードの多様さに加え、個別に設定も可能なパワー/エンジンブレーキ/トラクションなど諸々の設定が複雑に思える。オーナーとなれば、機能も楽しめるだろうが……。左側操作系のスイッチ・ボタンの操作項目の多さ、複雑さにも慣れるのに時間がかかった。 ■ミニインプレッション MTモードでは、変速したときのスイッチ感が強く、マニュアルミッションを操作している感触が薄い印象。変速にタイムラグや違和感があるわけではないが(初期のDCTには多少なりともあった)、複雑かつ緻密な機構のせいもあるだろうが、乗り手の操作とトランスミッションの作動の感覚的な距離が遠い印象。そのせいか、スポーツライクな雰囲気が盛り上がらないというのは、あくまで個人的な感想だが……。 そのほか、STDな仕様に対して、重めの機構を積んでいる印象は(実際にはSTD+10kg)、比較すると実感できるだろう。そういう個人的な感触・印象も含めて、クラッチレス機構の各車の中では、ATでずっと乗り続けていたい気分にさせる機構だった。 また上記のような印象からすると、オートマ感とマニュアル感の振り幅、排気量帯での棲み分け、コストを反映した価格設定も含めて、同メーカー内でのE-Clutchとの共存は、図りやすいのではないかとも感じた。 <CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツES DCT主要諸元> ■エンジン 水冷4ストローク並列2気筒ユニカムOHC4バルブ ボア・ストローク92.0×81.4mm 総排気量1082cc 圧縮比10.5 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル ■性能 最高出力75kW(102ps)/7500rpm 最大トルク112Nm(11.4kgm)/5500rpm 燃費19.6km/L(WMTCモード値) ■変速機 電子式6段変速 変速比1速2.562 2速1.761 3速1.375 4速1.133 5速0.972 6速0.882 一次減速比1.863 二次減速比2.625 ■寸法・重量 全長2305 全幅960 全高1475 軸距1570 シート高840(各mm) キャスター27°30′ トレール106mm タイヤF110/80R19 M/C(59W) R150/70R18 M/C(70H) 車両重量253kg ■容量 燃料タンク24L エンジンオイル5.2L ■車体色 パールグレアホワイト ■価格 205万7000円 report●モーサイ編集部・阪本一史 photo●岡 拓/ホンダ