自公政権のままでも新政権になっても年末には決着しなければならない「税制」の宿題がある
■復興債を返済するための課税が長引く ただし、2038年以降は増税となる。復興特別所得税は2037年まで課税して、東日本大震災の復興のために発行した復興債という国債を返済することとなっており、2038年以降は課税する予定はない。 そこで、この「使途変更」により、復興債を返済する財源が目減りし、2037年までに復興債を完済できなくなると見込まれる。そのため、復興債の返済が終わるまでは、この税を取り続けないといけなくなるから、当初予定のなかった2038年以降にも課税されるという意味で、「増税」となる。しかし、2020年代後半から「増税」となるわけではない。
さて、防衛増税の施行時期についてだが、2022年末段階では、その方針が閣議決定されているだけで、法律の根拠はなかった。しかし、今や法律の附則に明記されたのだから、何も決めないで放置することはできない。これも、総選挙直後から議論が不可避となる案件といえる。 自公政権が継続するなら、これまでの議論の蓄積から、2024年度で期限切れとなる税制措置をどうするかなどさまざまな具体的な税制改正案件が、残された時間が短い2024年末までに矢継ぎ早に議論されることとなろう。
では、総選挙後の結果、もし従来の自公政権に何らかの変更(連立の組み替えや政権交代など)が必要となったら、税制論議はどうなるか。 内容は違えども、やはり2024年末までに税制論議は避けて通れない。ましてや、2025年度予算政府案に合わせて税制改正を行おうとするなら、なおさらである。 消費税を減税しようにも、法改正が必要である。税制改正を盛り込んだ法案提出について、政権内での正式な手続きを経ずして国会に提出しようものなら、衆議院だけでなく参議院での審議は五里霧中である。税法の改正には、衆参両院の可決が必要である。
■税制で合意していなければ、政権が崩壊する そう考えると、従来の自公政権に何らかの変更が必要になると、新政権を発足させるために必要な政治資金問題や安全保障の考え方といった基本政策の合意の中に税制改正の案件が含まれていないと、政権発足後に税制改正をどうするかについて与党内で不一致が起きかねず、それが元で政権が崩壊することにもなりかねない。1994年に総辞職した細川護熙内閣がその一例だろう。 税制改正は、実務的に実行可能なものにしなければならない。現場での税務手続きに混乱をきたす形でとにかく「減税」を強行しても、減税の恩恵を国民が実感しにくいものとなろう。それは、岸田内閣の下で2024年6月から実施された定額減税で、経験したことである。
衆議院総選挙の結果を受けて、今後どのような税制論議が展開されるか。注視したいところである。
土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授