「そば並盛310円」“日本一の立ち食いそば屋”10円の値上げをも葛藤する理由「常連さんのため」「みんなが潤うことは不可能」
490円から540円になったジャンボゲソ天そば
注文したのは「ジャンポゲソ天」と「そば(並盛)」。一由そばのゲソ天は、ミニサイズでも十分な大きさがあり、通常サイズの時点で、他店のゲソ天の大きさを優に上回り、ジャンボともなると、それ一個で一食分になるほどのボリュームがある。 漆黒のつゆに浸るそばを覆い隠すほどに巨大なゲソ天。ガリッと歯ごたえがしっかりある衣の中には、大きくブツ切りされたゲソが無数に入っており、ゴリゴリとした食感が楽しめる。 このクオリティーのゲソ天を提供しながら、値段はそれぞれ100円(ミニ)、180円(通常)、230円(ジャンボ)と破格。 これに加えて、そば並盛一杯は310円だ。いまや、牛丼一杯が500円近くになり、有名バーガーチェーンのランチセットも最低600円。ワンコインでおなかいっぱいのランチを済ませることが難しい現代において、一由そばはまさしく救世主だ。 一由そばは今年、2度の値上げをしている。一度目は9月、ゲソの価格高騰を受けて、ゲソ関連の商品が10円~30円値上げした。 そして12月、原材料費と光熱費の高騰を受けて、そば・うどん・ご飯類のメニューを各20円(大盛30円~)の値上げをした。年始の段階ではジャンボゲソ天とそばの並盛のセットを頼んでも490円だったのが、いまでは540円だ。 ただハッキリ言って、それにしても安い。安すぎる。その証拠が、行列に現れている。今年、何度か一由そばにいったが、並ばなくてよかったのは一回だけ。ド平日の16時ごろに行ったときのみ。それでも店にはひっきりなしに人は訪れていた。 そのほかは、平日の14時ごろ、平日の深夜23時ごろなど、時間を変えて行ってみたが、どの時間でも20分以上は並ぶことになった。 こんなに人気ならもっと思い切って値上げもしていいのでは? 値上げに関する事情について、一由そばの代表取締役・山本社長に話を聞いた。
わずか10円の値上げすらも葛藤する理由
「私たちの店にはたくさんの常連さんが来てくださります。中には毎日来る方もいます。そうなると、10円、20円の値上げだとしても、月に換算すると大きく変わってしまいますよね。そう考えると、簡単には上げられないなって思ってしまうんです。それに、やはり立ち食いそば屋として、『早い・安い・うまい』をモットーにしているので、そこは変えたくないなと」(山本社長、以下同) とはいえ今年は二度の値上げしても、客が減っている様子は全くない。それに、どの時間帯でも行列になってしまっている以上は、値上げをすることでその問題も解消できて、客と店のWin-Winの関係ができそうだが……。しかしここについてもやはり、一由そばとしてのポリシーがあるようだ。 「確かに値上げをすることで、いろいろと解決できる問題はあるかもしれませんね。しかし、こう言ったらきれいごとに思われるかもしれませんが、値上げで解消できるものもあれば、失うものもあるのだと思います。正直言ったら、“安くて、うまくて、そしてみんなが潤う……”というのはほとんど不可能に近いじゃないですか。それでも、ギリギリのところでバランスを取り続けていきたいと思ってしまうんです」 立ち食いそば業界の未来はどうなるのだろうか。 コロナ禍、そして物価の上昇、日本一の立ち食いそば屋・一由そばは苦難の中でどのように経営を続けてきたのか。後編へ続く。 取材・文・撮影/ライター神山
ライター神山