「株主ファースト」の日本企業:配当よりも賃上げと設備投資に回せ―伊丹敬之・一橋大名誉教授
「本家」の米ではグーグルが無配当
一方で、日本が手本とする「本家」の米国でさえ、株主偏重にノーと主張する企業があると、伊丹氏は指摘する。 「米国のグーグルやアマゾンは創業以来、実は一度も配当したことがない。だが、株価はものすごく高い。グーグルはニューヨーク証券取引所に上場する際に、特別な種類株を出した。創業者の株は普通株の10倍の議決権を持つ。配当しないと経営者の座を追われるということがないように、50%以上の議決権を創業者でずっと維持し続けている」 「日本でも法律的には種類株を発行できる。東証は投資家保護のために許されないとすぐに言うが、世界の株式市場で、そんなことを言っているのは日本ぐらいではないか」
設備投資抑制が招いた産業衰退
株主還元重視の結果、抑え込まれて来た設備投資はどのような問題をもたらしたのだろうか。 「日本企業の国際競争力がどんどん落ちていく。新しい技術を取り入れるためには設備投資が必要だ。設備投資を削れば、国際競争力を自ら縮める方向に行く。バブル崩壊で設備投資が落ち込んだのはある意味、当然だとしても、その後もずっと低迷したままなのは問題だ。その一方で、配当だけが急増しているのがこの20年の実情だ」 「1990年代半ばに半導体産業の本を書いたことがある。『これだけ立派な投資を思い切ってやったから、米国を超えて世界1になった。韓国にちょっと追い上げられているので、もう少し頑張れ』とエールを送った。その後、日本企業が設備投資を減らしたりするから、衰退した。あの時踏ん張っていれば、こんな事にはならなかった」 「電機産業の衰退は中国、韓国との競争に敗れたのが大きい。その競争をきっちり受け止めて何ができるか、とことん考えていく戦略を日本企業は持たなかった。また、情報技術(IT)のソフトを開発する能力が低いのも響いた。日本でコンピューターサイエンスの修士号を取っている人材は米国の10分の1。日本の大学教育政策の間違いだ」 人口減少に突入した日本で、どのような設備投資が求められるのか。 「対外市場向けだ。それで日本は成長した。自動車産業が一番いい例。人口減を設備投資が大きくならない理由にする人は、言い訳を言っているだけだ。電機業界も家電製品をもっと海外に売ったり、どうやって安くて売るか懸命に考えたりして投資していれば、こんな体たらくにはならなかった」