「被疑者」尹錫悦…情けなく惨憺たる状況だ【12月9日付社説】
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案は与党・国民の力が採決に参加しなかったため廃案となったが、尹大統領の今後を巡る状況はさらに緊迫の度を増している。検察の非常戒厳特別捜査本部の朴世鉉(パク・セヒョン)本部長は8日午後、尹大統領を内乱容疑の被疑者として立件し、捜査中であることを明らかにした。検察が現職の大統領を公の場で被疑者と呼ぶこと自体が事態の深刻さを示している。朴世鉉本部長は今回の戒厳令事態について「公務員が職権を乱用し、国憲紊乱(びんらん)目的で暴動を起こしたもの」と規定した。また警察が「検察との合同捜査は考えていない」との考えを示したことも、同じく容疑の立証に自信があるからだろう。高位公職者犯罪捜査処(公捜処)は検察と警察に対してこの事件を公捜処に担当させるよう要請した。憲法で内乱・外患罪以外で刑事訴追されない現職大統領に対して捜査機関がわれ先にと捜査に乗り出しているのだ。 【写真】会見前に沈痛な面持ちを見せる非常戒厳特別捜査本部の朴世鉉本部長
尹大統領は弾劾採決直前に行った対国民談話で「私の任期を含め、今後の政局安定策はわが党(与党・国民の力)に一任する」としながらも、早期退陣の意向は明確にしなかった。このように大統領の去就という重大問題を与党に押し付けること自体が責任ある態度ではない。大統領自らが今直面している深刻なかつ緊迫する状況を理解できていないようだ。 韓東勲(ハン・ドンフン)国民の力代表と韓悳洙(ハン・ドクス)首相は「大統領の秩序ある早期退陣」を進める考えは示したが、今後の実効的な計画やその内容については明確にしなかった。何よりも現職大統領が自らの職を維持した状態で、しかもいかなる法的根拠で首相と与党代表がいわゆる「責任首相制」で国政を運営するかという議論まで浮上した。国民の力は弾劾案に続き政局安定策においても内部で対立が深まり、もはやまひ状態になっている。韓東勲代表は「大統領の職務停止不可避」を強調したものの、弾劾反対という党の方針は維持されている。弾劾に反対するのであれば国民の力も投票に参加し、反対の意向を明確にすればよいはずだが、彼らは集団での採決不参加という潔くない方法を選んだ。これも自分たちの選択に大義名分が不十分と自ら認める形となってしまった。 2016年に当時の朴槿恵(パク・クンヘ)大統領が弾劾された当時、政治的には確かに混乱したが、国の信認度と経済に大きな打撃はなかった。その理由は「予測可能性」があったからだ。国会での弾劾、憲法裁判所の決定、さらに大統領選挙というタイムスケジュールが提示されたからこそそれは可能だった。それに対して今回は明日、あるいは来週にも何が起こるか全く予測がつかない。与党が「深刻な分裂は避けたい」という理由で弾劾だけは避けたいのであれば「秩序ある退陣」の具体的な方法とそのスケジュールを早期に国民に提示しなければならない。大統領にとっても与党にとってもそれほど多くの時間は残されていない。野党・共に民主党も協力して知恵を結集する責任ある対応が求められている。