A330MRTTより小回りきくKC-46 特集・日米が空中給油機に求める条件
米空軍や航空自衛隊が導入しているボーイングの空中給油・輸送機KC-46A「ペガサス」。日本も製造に参画している中型旅客機767をベースにした機体で、日本など同盟国の分も含めると最大250機の製造が計画されており、10月の時点で米空軍へ89機、空自へ4機の計93機が引き渡されている。 【画像】KC-46の給油オペレーター席やコックピット 空自向けは6機発注済みで、残り2機は2025年に引き渡される見通し。今年9月には、米国政府が最大9機のKC-46AをFMS(対外有償軍事援助)により日本へ売却することを承認したことから、空自のKC-46Aは最大15機になる。KC-46Aの前身となるKC-767も、2010年度から4機運用しており、空自の空中給油機は最大19機となる計画だ。 一方、目玉機能の一つ「RVS(Remote Vision System:遠隔視認システム)」など、不具合の多発が以前から指摘されており、近年は中型旅客機A330-200をベースにしたエアバスのA330 MRTTがこれまでにも増して注目されている。 10月16日から東京ビッグサイトで開かれた航空宇宙防衛分野の展示会「JA2024(2024年国際航空宇宙展)」に合わせて来日した、ボーイングでKC-46Aの事業開発を担当するショーン・マーティン・シニアマネージャーは、「KC-46Aの能力向上について、前向きに取り組んでいると受け取っていただけるとありがたい」と、不具合対策が進んでいることを報道関係者に説明するとともに、A330 MRTTと比較した際の優位性にも触れた。 当紙では、RVSの改良版などに関する記事を先行掲載しているが、今回は日米が求める空中給油機の条件などを念頭に、A330 MRTTとの機能比較を中心に取り上げる。また、空自とイタリア空軍のみ採用したKC-767と、KC-46Aで異なるエンジン選定についても、米空軍時代から空中給油機に携わり、KC-767の教官として来日経験もあるマーティン氏に聞いた。 '◆駐機時の大きさにも優位性 KC-46Aは、ボーイングが長距離貨物機「767-200LRF」として計画した機体を基に開発された空中給油・輸送機。767-200ER旅客機の胴体、767-300F貨物機の主翼・着陸装置・貨物用ドア・床、767-400ERのコックピットとフラップを組み合わせたKC-767の米軍仕様「KC-767 Advanced Tanker(KC-767AT)」が発展したものがKC-46Aで、空中給油機能などを装備しない貨物機「767-2C」として製造後、軍用機として改修されるとKC-46Aになる。 対するA330 MRTTは、A330-200をベースに開発された機体で、F-15戦闘機への自動空中給油 (A3R)に成功するなど、欧州製であっても米国製の機体への給油作業の範囲を広げており、KC-135やKC-10の全盛期のように、ボーイング製空中給油機が一強という時代からは変わりつつある。 実際、米空軍のKC-X計画では、ノースロップ・グラマンとEADS(現エアバス)連合がA330 MRTTをKC-30Tとして提案し、KC-45として選定されたものの、ボーイングの異議申し立てで機種選定がやり直しとなってKC-46Aが選ばれ、2011年2月に開発プログラムが立ち上がった経緯がある。 マーティン氏は、空中給油機を前線基地へ展開する際に必要となる駐機スペースに言及。大型輸送機C-17「グローブマスターIII」を5機、KC-46Aを4機展開できる駐機場に、A330 MRTTは4機にとどまり、米軍の前線展開で必須となるC-17と同時に展開することが難しい点に触れた。 「KC-46AはKC-135と同じサイズだ。空自や米空軍が太平洋に展開する上で、重要性を理解して頂けると思う」と、KC-46Aによる置き換え対象であるKC-135が運用できた場所であれば従来通りの展開が可能である点を強調した。 KC-46Aは全長50.5メートル、全幅47.5メートルで、旋回半径は39.3メートル(129フィート)。対するA330 MRTTは全長58.8メートル、全幅60.3メートル、旋回半径45.7メートル(150フィート)と、「(KC-46Aよりも)駐機時の占有面積が48%大きい」としている。 また、マーティン氏は必要とする滑走路長にも言及。KC-46Aは着陸に2000メートル、A330 MRTTは2500メートル以上の滑走路長が必要になり、「太平洋地域の運用で飛行場の制限などの比較を理解して欲しい」と、柔軟な運用が可能である点も力説した。 ◆運用規模の違い KC-135時代からの運用を変えずに近代化できるのが、後継機として選定されたKC-46Aの特徴といえる。一方、1機でより多くの燃料や人員を輸送できる点がA330 MRTTの強み。最大燃料重量(MFW)はKC-46Aの21万2299ポンド(約96トン)に対し、A330 MRTTは24万5000ポンド(約111トン)と15.4%多い。 人員輸送は考え方の違いもあり、単純比較は難しいものの、KC-46Aの最大114人に対してA330 MRTTは最大300人と、一度に多く運ぶという考え方が強いようだ。 マーティン氏は、「A330 MRTTの運用国は3-4機のところが多い。一方、米空軍や空自は機数が多く、運用規模に違いがある」と、比較的小回りの利くKC-46Aを大量に運用する日米と、少数のA330 MRTTで一度に運ぶ欧州などの採用国の差異に触れた。 ◆なぜPW4000なのか 9月に掲載した特集では、空自が運用するKC-767とKC-46Aの違いも取り上げた。ベースがKC-767は767-200ER、KC-46Aは767-200LRFと異なり、対応している給油方式がKC-767は米空軍機が採用するパイプ状の「フライングブーム」方式のみ、KC-46Aはこれに加えて米海軍・海兵隊機のホース状の「プローブ・アンド・ドローグ」方式にも対応。最大積載燃料はKC-767と比べて約32%増えており、コックピットの計器類や給油システムなども新しくなっている。 給油まわりの違いに加えて、わかりやすい違いはエンジンだ。KC-767はGE製CF6-80C2だったが、KC-46Aはプラット・アンド・ホイットニー(PW)製PW4062に変わった。KC-767のエンジンは、CF6とPW4000のいずれかを選択できたが、機体を採用した日伊両国がCF6を選定している。これに対し、KC-46AはPW4000一択で、ほかのエンジンは選べない。 CF6は選定当時の政府専用機B-747-400や、早期警戒管制機E-767、国産輸送機C-2も採用しており、空自にとっては共通性の高いエンジンで、大手航空会社も採用していて日本での運用実績が官民とも豊富だった。 米空軍ではKC-10に乗務するなど、空中給油機に長らく携わってきたマーティン氏は「PW4000は歴史の長いエンジンで実績があり、C-17のエンジンと非常によく似ている。コストもCF6より安かった」と、前線への展開などで行動を共にする機会が多いC-17のエンジンがPW製F117(民間機向けはPW2000)であることも、エンジン選定に影響したという。 ◇ ◇ ◇ 民間航空機(BCA)部門で労働組合が16年ぶりとなるストライキに突入したボーイング。KC-46Aそのものの不具合対応だけでなく、民間機は737 MAXや787で相次いだ品質問題、防衛・宇宙・セキュリティ(BDS)部門は今年6月に打ち上げられた宇宙船「CST-100 スターライナー」の失敗と、存亡の危機に立たされているといっても過言ではない状況だ。 こうした状況下で出張費用も大幅に削減されており、重要なもの以外はすべて中止になっている中、ボーイングから少数の幹部が10月の国際航空宇宙展に合わせて来日した。KC-46Aについては、2025年は5号機と6号機を受領する年でもあり、マーティン氏は予定通りデリバリーできそうだと述べていたが、防衛省などにはほかの話題も含め、直接対話する必要性を感じていたようだ。 今回の報道関係者向けの説明でも、対抗馬であるA330 MRTTとの比較に重点が置かれていた印象を受けたが、同じ空中給油機でも運用思想には違いがみられ、単純に導入機種を変えられるものではないといえる。 KC-46Aの品質問題は長期化しており、RVSの改良版「RVS2.0」が量産機へ搭載される2026年ごろには、一連の問題が解決していることを望みたいものだ。
Tadayuki YOSHIKAWA