テクニクス初のワイヤレスアクティブスピーカー「SC-CX700」、高音質へのこだわりと開発背景【試聴インプレッション有】
パナソニックは、テクニクスブランド初のワイヤレス・アクティブスピーカー「SC-CX700」の製品特長を紹介する、メディア向け説明会を開催。開発背景などを説明するとともに、参加者への試聴デモも行った。なおSC-CX700は10月下旬発売予定で、価格は352,000円(税込)。カラーは、テラコッタブラウン/チャコールブラックの2色を用意している。 【写真】説明会の模様。カットサンプルで製品の内部構造も確認できた 2024年は、テクニクスブランド復活から10周年を迎えるミレニアムイヤー。そんな記念すべき年に登場したSC-CX700は、テクニクスのデジタルアンプとスピーカー技術を結集させ、くらしのなかに自然に溶け込む上質なデザインと快適な操作性を備え、テクニクス初のワイヤレス・アクティブスピーカーとして開発されたという。 テクニクスは、復活から変わらず“Rediscover Music”というフィロソフィーを掲げており、「ずっと変わらない情熱を持ち、音楽を愛する全ての人に再び心を震わす喜びの実現を目指している」と明かす。現在は音楽の楽しみの選択肢が膨大になっており、年代によって音楽の触れ方が変わってきているが、さらにモダナイゼーションをしていいき、次世代に適用できるよう新たな技術にチャレンジしていくとアピールする。 同社のスピーカーシステムは、テクニクスブランド復活後、“リファレンスクラス”や“プレミアムクラス”から始まり、ユニットや高音質技術を改良し、さまざまなシミュレーション解析技術を駆使しながら、新製品を開発しているとのこと。そして、テクニクスブランドのスピーカーの技術だけでなく、アンプ、信号処理も含めた高音質技術の蓄積が、SC-CX700の誕生に結実したと語った。 また、SC-CX700の開発背景について、「テクニクスブランドが復活して10年、次の世代のHi-Fiというものは、どういう形になるのかと考えたときに、今のテクニクスブランドには、オーディオが大好きな20代・30代といった若いメンバーが多く集まっていることが糸口となった。そういった若年層のメンバーが考える、ネクストジェネレーションの人たちが欲しいと思える、そして憧れるHi-Fiオーディオアイテムを開発するプロジェクトが立ち上がり、そのひとつの答えが今回、形になった」と、パナソニック株式会社 テクニクスブランド事業推進室 室長 小川理子氏が語ってくれた。 SC-CX700は、「テクニクスがこれまで培ってきたスピーカー/アンプ/信号処理の技術を結集させて理想的にパッケージ化した」と同社が自信を見せるほど、テクニクスのコア技術が細部にまで盛り込まれている。 スピーカーユニットには、新開発の19mmリング・トゥイーターと150mmコーン・ウーファーを組み合わせた、新規の同軸ユニット「Phase Precision Driver 4」を搭載。リング・トゥイーターは従来のドーム型よりも軽量で、音の立ち上がりと収束の速さが持ち味であり、不要な残響音が少ないのがポイントだ。 リング・トゥイーターには波面解析に基づいて再設計した「Linear Phase Equalizer」によって、理想に近い波面を形成し、ウーファー部には浅型振動板とバッフル面が障害のない形状とする「Smooth Flow Diaphragm」を施したことで、上質で滑らかなサウンドに繋がっているという。 SC-CX700では、単品コンポーネントと同様の思想から、スピーカーとアンプ一体型における理想的な構造を追求しており、完全セパレート構造の「Acoustic Solitude Construction」を導入している。スピーカー部分とアンプ部分を、どちらも独立したボックスに収め、スピーカーボックスとアンプボックスの間に熱いMDF素材、さらに空気層を設けることで、スピーカーの駆動によって発生する振動が、アンプボックスに伝わらない設計を採用することで、振動影響のない信号処理・信号増幅を実現している。 スピーカー振動板の動きをリアルタイムにシミュレーションし、併せて補正することで高調波歪み最大限に低減する「Model Based Diaphragm Control(MBDC)」を採用する。スピーカーの構造上、ボイスコイルから遠ざかるユニットのエッジ部分では十分な駆動が得られず、ダンパーとエッジの変位が生じることで高調波歪みが発生し、各楽器の音の分離感などに悪影響を与えてしまう。 そういったスピーカー特有の原理的な課題を、信号処理の観点から解決に取り組んだ技術が「MBDC」だ。アンプ部には「MBDC用信号処理プロセッサ」が内蔵されており、アンプ部に入力された音声信号を、高精度なスピーカーモデリング技術によって解析する。 測定から割り出した実際の歪みを打ち消すように、逆補正の電圧波形を加えることで、歪みのない理想的なスピーカーモデルを実行する。それにより、低歪みかつ、クリアな低域再生と、高調波の干渉がないリアリティの高いサウンドステージを成し得ているとのこと。 高度なジッター削減回路をもつ「JENO Engine」を左右スピーカーのアンプに独立で搭載しており、デジタルチャンネルデバイダーとマルチアンプ構成とすることでスピーカーをダイレクトに駆動。伝送時の信号品位の劣化を最小化し、また左右の再生音の変質が生じない忠実度の高い信号伝送・信号増幅を実現している。 スピーカーユニットを重心位置で固定して駆動時のユニットのブレを低減する「重心マウント向上」をはじめ、フロント側に配置されたバスレフポートには流体解析によって空気の流れの最適化する「Smooth Flow Port」などを導入。また再生音の躍動感を損なわないために「吸音レス設計」が採用されている。圧力分布解析に基づいて、バスレフポートの内部開口位置を細かく調整しているため、吸音材を使用しなくとも定在波によるピーク/ディップを最小化しているという。 また、電源回路/パワーアンプ回路/信号処理回路をそれぞれ分離させた構造となっているため、パワーアンプ回路と信号処理回路に、それぞれ独立した電源を搭載する「Twin Power Supply Circuit System」を採用。そしてアナログ回路を筆頭に、上位モデルで採用実績のある高品位パーツを惜しみなく投入することで、テクニクスブランドならではのサウンドに寄与しているという。 左右のスピーカーを有線接続する際は、付属のLANケーブルを使用。有線接続時のサンプリング周波数/量子化bit数は最大192kHz/24bitまでカバーする。左右のスピーカーのワイヤレス接続も可能で、設置の自由度を高めている。LRスピーカーのワイヤレス接続時は96kHz/24bitまでの伝送に対応する。また、スピーカーのプライマリー/セカンダリーの切り替えに対応することで利便性と設置性をさらに高めている。 機能面では、設置場所に合わせて最適な音質調整を行う「Space Tune」を採用する。影際設置の「Wall」、コーナー設置の「Corner」、棚置きの「In a Shelf」、自由設置の「Free」の4つのプリセットを備え、自動調整の「Auto」、そして細かな設定ができる「Measured」機能(iOS機器のみ)に対応する。 現代の多用なHi-Fiオーディオの楽しみ方に応えるべく、多数の音楽ストリーミングサービスに対応している。Spotify Connect/Amazon Music/Deezer/Internet Radio/Roon Readyをカバー。また、新たにローンチしたQobuzへの対応も検討しているという。 ワイヤレス機能は、Wi-Fi(5GHz/2.4GHz)、Bluetooth、AirPlay2に対応。Wi-Fi環境では、ホームネットワーク環境下にあるNASに保存したハイレゾ音源の再生が可能であり、BluetoothはSBCコーデックが再生できる。スマートフォン/タブレットとの接続も手軽に行える。 入力端子が豊富な点も特徴的で、ARC対応のHDMIや光デジタル音声入力はテレビと、アナログ音声入力(3.5mm)からはDAPやスマートフォンとの有線接続に対応。そしてMM型カートリッジに対応したPHONO入力からはアナログプレーヤー、USB Type-CではPCと接続してデスクトップオーディオとしても使用できる。 HDMIの伝送負荷を下げることで高音質を叶える技術も採用。テレビとSC-CX700をHDMIで接続した場合、ARCによって音声信号を受信するには、HDMIの規格上、映像信号の伝送も必要となるが、映像信号のレートを下げ、各ピクセル値をゼロとすることで、HDMI LSI内のノイズを低減している。そして音声信号は、HDMIデバイスをバイパスさせて直接DIRに入力させることで、大幅にジッターを低減しているという。 操作性についても工夫を盛り込んだ。専用アプリ「Technics Audio Center」を使用して、スマートフォン/タブレットから操作でき、画面表示のカスタマイズも可能なアプリを使用できる。付属リモコンでは、入力選択やボリューム調整、再生操作や選曲などもスムーズに行うことができる。また、プライマルスピーカー側には、天面パネルを導入しており、タッチスイッチによって入力切替や音量操作が可能となっている。 デザイン面においては、旭化成製スエード調人工素材「Dinamica」をキャビネットの外観素材に使用している。カラーはテラコッタラブラウンとチャコールブラックの2色を用意している。海外モデルは、シルキーグレイを加えた3色展開となっている。 また、同社は環境への配慮として「Panasonic GREEN IMPACT」プログラムを推進しており、パナソニックグループ全体でCO2の大幅削減に取り組んできた背景があるが、テクニクスブランドもプラスティックの使用をやめ、90%のプラスティックフリー化を進めている。精密機器を取り扱うため、緩衝材に対する長年のノウハウがあったが、今一度見直し、サステナビリティに取り組むオーディオブランドとしても挑戦を行ったという。 説明会ではSC-CX700で、アナログプレーヤー「SL-1500C」と組み合わせたアナログレコードの音と、ミュージックサーバー「ST-G30」内にアーカイブされたデジタル音源の再生を試聴したが、テクニクスブランドのハイエンドモデル群で聴いた、ひとつひとつの音を緻密に描写し、音声信号に含まれる情報を過不足なく再生する傾向を受け継いでいる印象を受けた。 デジタル音源の再生では、女性ボーカルとピアノの音が中心となる音源を試聴したが、女性ボーカルの歌声をタイトかつ鮮明に表現する。また、ボーカルの歌い始めや音程が変化する部分に対して、高速に反応する立ち上がりの速さを体感できる。立ち上がりの速さはピアノの音でも実感でき、弾いているタッチの感触、音が消えている際もスムーズに追従していく。 アナログレコードの再生では、女性のボーカルの歌声をクリアに表現しながらも柔らかさを含み、息遣いもリアルに聴かせてくれる。加えてアコースティックギターなどの楽器隊は、十分な響きがあるため楽器の特徴を感じられ、また広い部屋で試聴しているにも関わらず、スピーカーサイズ以上の広がり感を演出していた。 製品版では行えないが、「MBDC」のオン/オフによる効果の違いをデモで確かめることもできた。オフにすると、先程の広がり感が一気に狭まる感覚と、ひとつひとつの音に滲みが生まれ、ボーカルと楽器が少し混ざった感覚を覚える。また音の広がりが、水平方向でも奥行き方向でも狭まった聴こえ方に変貌してしまう。MBDCの効果はとてもわかりやすく、スピーカーモデリングの精度の高さを顕著に感じることができた。
編集部:長濱行太朗