スコットランドで再び勢いづく独立論 立ちはだかる多くの壁
国民投票で変わりつつある潮目
国民投票直後から、スコットランドのスタージョンSNP第一大臣(首相)は、英国からの分離独立の是非を再度問う住民投票の実施について検討を始めました。2016年のスコットランド議会選挙において、SNPは状況に「著しく重大な変化」があった場合には住民投票を再度実施すると公約していましたが、その「著しく重大な変化」の例として、英国のEU離脱が挙げられていたのです。EU離脱という事態が発生したことで、SNPは選挙公約に基づいて住民投票を実施する民主主義的な正当性を手にしました。また、スコットランド人の圧倒的多数がEU残留を求めたにもかかわらず、英国全体の離脱票によって離脱を強いられることは、スコットランド人の民主主義的権利の重大な侵害に他ならない、という主張もSNPは強調しました。 国民投票でEU離脱という結果が出たことで、スコットランド独立に対する人々の考えは変わりました。国民投票前に行われた世論調査では、継続して独立反対が賛成を上回っていたのですが、国民投票後の世論調査では独立賛成が多数となりました。 スコットランドの少なくない人々が、国民投票におけるEU離脱という結果は、SNPのいう「著しく重大な変化」にあたると見なしたようです。 住民投票では独立に反対したスコットランド有力紙の中で、国民投票結果を受けて独立を求める立場に変わるものも出てきました。同様に、独立に反対していた労働党政治家や労働組合幹部の中からも、少数ながらEU離脱に向かう英国からの独立を支持する人々も見られるようになりました。このように、EU国民投票を経てスコットランド独立をめぐる環境は、大きく潮目が変わりつつあるようです。
経済、通貨、安全保障など大きな課題
それでは、スコットランドの分離独立は不可避なのでしょうか。必ずしもそうとは言えません。なぜなら、住民投票で独立に対して立ちはだかった壁が、依然として存在しているからです。そして、分離独立を問う住民投票を再び実施して敗北すれば、今度こそスコットランド独立問題の幕引きとなる可能性があります。 スコットランド独立に向けて乗り越えなければならない壁として、まず経済の問題があります。住民投票で独立が否決された理由の一つに、独立後の経済の展望について多くの有権者が抱く懸念を払拭できなかったという点がありました。この点で、スコットランド経済の重要な部分を占める北海油田の石油産業が、近年の原油価格低迷の影響で深刻な不況に陥っているのは、独立派にとって大きな痛手となっています。 また、経済に関係する問題として、独立したスコットランドがどのような通貨を使用するのかという通貨の問題も、独立への大きな壁として残っています。EU加盟国である英国の通貨ポンドを独立後のスコットランドが継続使用することさえ問題とされたわけですから、EU加盟国ではなくなる英国のポンドを使い続けることとスコットランドのEU加盟は両立しないとされても仕方ありません。