BLから飛び出して、新たに得た「自由」 一般文芸でも開花した“腐女子”作家、凪良ゆう
一週間のうちどのくらい、そんな壮絶な生活をしているんですか、と尋ねると、ぽかんとした表情で答えた。 「え、毎日」 締め切りが終わった日など、たまに飲みに出ることもあるというが、基本的に、休みはない。しかし、筆は遅いのだと苦笑する。 「めちゃくちゃ遅いので全然、量は書けないです。ほとんど、書いたり消したり、書いたり消したり。そんなことばっかりしてます。ずーっと書き続けて、それが全部使える原稿だったら、年に10冊ぐらい出せてますよね。実際は、頑張っても数冊しか出せないので、どれだけ無駄なことを書いてるか、今話していてちょっと分かりました。こんな生活、人から見たら『かわいそう』なんでしょうね(笑)」 確かに、殺伐とした印象かもしれない。しかし、そこにほとばしる創作意欲は、凄まじい。生涯でそこまで熱中できる仕事に出会える人間は、そう多くないはずだ。30半ばで天職に出会った凪良は、「かわいそう」どころか、最も幸せな人に見える。 「幸せ、そうですね、好きな仕事で生活できる、そういう意味では、幸せだと思ってます。30歳を過ぎてからでも、本当にやりたいことに出会うことはできる、全然遅くないって、若い人たちに思ってもらえたら嬉しいですね」
凪良ゆう(なぎら・ゆう)
作家。2006年、『小説花丸』(白泉社)に中編「恋するエゴイスト」が掲載され、翌年、長編『花嫁はマリッジブルー』で本格的にB L作家としてデビュー。B L作品は40冊以上。ライト文芸『神さまのビオトープ』(講談社タイガ)で注目を集め、一般文芸で初の単行本『流浪の月』(東京創元社)、続いて『わたしの美しい庭』(ポプラ社)を発表。『流浪の月』は2020年本屋大賞を受賞した。