BLから飛び出して、新たに得た「自由」 一般文芸でも開花した“腐女子”作家、凪良ゆう
ボーイズラブ(BL)小説の書き手として10年以上のキャリアを持つ作家が、一般文芸作品で本屋大賞を受賞した。このニュースが、ちまたをざわつかせている。「どうしてBL作家に?」「BLを書いていた人の一般文芸ってどんな感じ?」「BLはもう卒業してしまうの?」――一躍その名を知られることとなった作家・凪良ゆうとは、果たしてどんな人物なのか。(取材・文:山野井春絵/撮影:殿村誠士 Yahoo!ニュース 特集編集部)
BLの「王道」からは外れていた
「BLはジャンルとしては大きくないんですが、とても濃いファンがついてくれる嬉しいジャンルでもあるんですよ。一般文芸を書いたことでBLから離れてしまうかもと心配された読者さんもいましたが、愛ゆえだと思うと、それもありがたいですね」 一般文芸界ではルーキーともいえる凪良ゆう。今年の本屋大賞で、その名を初めて知ったという人も多いかもしれない。ボーイズラブ(BL)というジャンルで、男性同士の恋愛ストーリーを長く書き続けてきた作家だ。これまでに発表したBL作品は40冊以上、キャリアは10年を超えている。熱狂的なファンも多い。
「BLは恋愛が主体のジャンルなので、メインテーマは恋愛と決まってます。あと少女漫画と少し重なるところがあって、主役ふたりを完全な悪人にはしないとか、最後はハッピーエンドとかいろいろ約束事がありますね。でも私は新人のころから王道から外れ気味で、『ああ、もうこの人にBLの王道を書かせるのは無理だ』って編集さんから諦められた感があって、なので最低限の約束事は守りつつ、好きに書いてきました」 BLにおける「王道」とは、幸せな感じに満ちた、甘いストーリーのこと。BLファンの多くは、安心して恋愛ストーリーに耽溺できる王道を支持しつつも、それぞれに細かな好みがある。最近は、BLを好む“腐男子”も増えてきたというが。 「どこまで自分の好みに合っているか、というところをリサーチしてから本を買う人は多いように感じます。たとえば一途な恋愛が好きな読者さんは三角関係ものは避けるし、甘いロマンティックな恋模様が好きな読者さんはつらい展開のものは避けるとか。だから読者さんが地雷を踏まないように、出版社が書くあらすじも、そこまでネタバレしちゃう? ということがたまにありますね(笑)」 一般文芸を書き始めることで、「約束事」に縛られることなく、何でも自由に書くことができる喜びを得た。 「最初はちょっと、戸惑いました。太平洋の真ん中にドボンと落とされて、目指すべき島影も見えない感じ(笑)。不安でしたけど、主人公が女性でも子供でも老人でもいいし、テーマが恋愛でなくてもいい。日常のちょっとしたことでも社会問題でも、思うままに書きたいことが書けるのは作家として当然楽しいです。とはいえ、BLが不自由だと言ってるわけではないですよ。BLにはBLでしか書けない楽しさがある。現実ではあり得ないロマンティックな展開も照れることなく書けるし、夢があふれたジャンルだと思います」 人間関係の精緻な描写。凪良は稀有な才能の持ち主だと、本屋大賞を受賞した『流浪の月』(東京創元社)の編集担当者、桂島浩輔は言う。 「凪良さん初の非BL作品『神さまのビオトープ』を最初に読んで、大変な実力だ、と。それから、全BL作品を読んだんですが、芯のところは全く同じだと感じました。どの作品も、人間関係がすごく丁寧に書かれているんです。この方は、人間関係をよく観察しているんだな、だから、一般文芸を書いても絶対に大成する、と確信しました」