毛利悠子の愛すべき機械が示す「自然の本質」とは?|青野尚子の今週末見るべきアート
たとえばジョゼフ・コーネルの《見棄てられた止まり木》には「羽根が乱れている時は、適当な位置に広がるまで箱を振ること」というインストラクションが書かれている。コーネルのこのインストラクションは作品の裏側に書かれているので、通常の展示方法では見ることができない。今回はその箱の裏も見えるように置かれている。 「このインストラクションを読むと、コーネルは意図的に『動き』を要素の一つとして取り入れていることがわかります。これは箱の裏を見ないと気づけなかったことでした。風を感じる、見えないものを感じるという意味ではこの展覧会のキーになる作品だと思います」
コーネル作品の奥に進むと暗闇の中、水をたたえたプールの上に鉄琴が置かれているのがぼんやりと見える。時折、その鉄琴をたたく音がする。背後には小さな火花が光る。毛利が制作したこの《鬼火》という作品は風が吹くとカーテンが揺れ、それが水上に浮かぶ金属の網に触れると網に流れていた微弱な電気が通電し、火花が散って鉄琴が音を奏でる、という仕組みだ。「風や、見えない力をどう取り入れるかを考えて作った」(毛利)というこの作品は、コーネル作品への返答となっている。
パウル・クレーの《数学的なヴィジョン》にはアルファベットや矢印などが描き込まれている。何かの機械の設計図のようにも見えるこの絵に、毛利は《Magnetic Organ》を組み合わせた。2つの箱状のアンテナが見えない磁場を生じさせていて、時折モビール状のコイルがその前を通ると虫の音のようなものが聞こえる。 「アーティストが何を考えていたのかを想像しながら一つひとつ制作していったような感じです」と毛利はいう。
クロード・モネは10日間の予定でブルターニュ地方の「ベリール」という島に出かけたが、滞在を延ばしておよそ2ヶ月半の間、そこに滞在する。彼はそこで見た島の光景を《雨のベリール》という絵に残した。 「その場所に興味がわいてきて、実際に行ってみたんです。確かに素晴らしい景色が見られるスポットはあるけれど崖っぷちで足元も悪い、大変なところでした。絵画からは静かで穏やかな印象も受けますが、実際はモネは過酷な環境に身を置いている。そこに彼のパッションを感じました」