「物理的にありえないフォーク」プロ野球審判員が34年間で見た「すごい投手」とは?
● 巨人と中日が最終戦で優勝を争った 1994年「10.8決戦」の今中投手 巨人と中日が、お互いペナントレース最終戦で優勝を争った1994年「10.8決戦」。中日の先発は左腕・今中慎二投手でした。 150キロ級のストレートと90キロ前後の大小2つの超スローカーブの緩急で打者を翻弄しました。何より投球間隔が短く、テンポがいいのです。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……。打者に考える隙を与えません。われら球審のリズムものせてくれます。 ただ、バッテリーを組んでいた中村武志捕手は、際どいところを「ボール!」とジャッジされると、「入っていませんかね?」という感じで、名残惜しそうにミットをしばらくそのまま止めておくのです。ボールだと、星野仙一監督時代は怒られたのでしょうか(苦笑)。 一方、マウンド上の今中投手は「ボール球の判定ならボール球でいいから、早く球を戻してください。次の球を早く投げたいんです」という表情でしたね。たとえるなら、信号機がない高速道路を走るような感じでしょうか。表現が適切かどうか分かりませんが、信号待ちで何度も停まるより、信号機がない高速道路を(スピードは別にしても)走るほうが快適ですよね。今中投手は、投球リズムを大切にして投げるタイプと見受けました。 今中慎二 ●1971年3月6日生まれ、大阪府出身。182センチ、73キロ。左投げ左打 ち ●大阪桐蔭高→中日(1988年ドラフト1位~2001年) ■通算12年=233試合91勝69敗5セーブ、防御率3.15 ■最多勝1度、最多奪三振1度 ■沢村賞1度、ベストナイン1度、ゴールデングラブ賞1度、オールスター出場4度
● 凄い新人が入ってきたと驚いた コントロール抜群の上原浩治 上原浩治投手(巨人)が1999年に15連勝したとき、凄い新人が入ってきたものだと驚きました。球の回転がきれいで、上原投手のリリースポイントから捕手のミットまで、投球の軌道が一直線に見えるイメージです。しかし、打者からすればストレートとフォークのコンビネーションをコマンド(自由に操る)で決められるので、厄介だったでしょう。 投手は「9イニング平均の与四球率が2.00個以内だと、抜群にコントロールがいい」部類だそうです。最近では石川雅規投手(ヤクルト)が1.78個(2023年現在)。“投げる精密機械”、“針の穴を通すコントロール”の異名を取った往年の通算320勝投手・小山正明さん(阪神ほか)は、1.80個です。上原投手はそのはるか上をいく1.26個。名球会投手の中でも段違いだそうです。プロ野球記者たちは喜んでいました。 「試合終了後、ヒーローや監督に取材したあと、球場の記者席で原稿を書き終わると終電ギリギリで、だいたい帰宅は深夜0時半ごろ。それが上原の登板日は試合が早く終わる。その日のうちに帰宅できるし、カミさんもまだ起きている」 その記者に言わせると、故・野村克也監督は上原投手を絶賛していたそうです。 「打者に1つの球種を意識させておいて、もう1つの球種への意識を稀薄にさせるのがワシの配球論。上原はストレートとフォークボール、内角高目のボール球と外角低目のストライク。この2ペアを絶妙なコントロールで操った。だから勝てる投手だったのだ」 上原浩治 ●1975年4月3日生まれ、大阪府出身。187センチ、87キロ。右投げ右打ち ●東海大仰星高→大阪体育大→巨人(1998年ドラフト1位)→オリオールズ(2009年)→レンジャーズ(2011年)→レッドソックス(2013年)→カブス(2017年)→巨人(2018年~2019年) ■日米通算21年=748試合134勝93敗104ホールド128セーブ、防御率2.94 ■最多勝2度(日)、最優秀防御率2度(日)、最高勝率3度(日)、最多奪三振2度(日) ■沢村賞2度、ベストナイン2度、ゴールデングラブ賞2度、新人王(日)、 オールスター出場9度(日8、米1) ■主な記録=「20勝、30セーブ」経験投手、日米通算100勝100ホールド100セーブ、ワールドシリーズ胴上げ投手
井野 修