「海を沸騰させるな!」 管理職のためのメンタルヘルスケア
「解決しようがない問題は放っておけ」という意味
お恥ずかしい話ですが、以前仕えていたアメリカ人の上司から、当時30歳後半だった私は「Don't boil the ocean!(海を沸騰させるな)」と忠告されていました。「Boil the ocean.(海を沸騰させる)」とは、実現不可能なことや、過剰なことをする例えです。当時は単に「解決しようがない問題は放っておけ」という意味だと捉えていたように思います。 その頃、アジアでも危機管理対応を迫られたアメリカ同時多発テロやそれ以降の出来事を振り返ってみると、大きな変化の過程にいたに過ぎないことが良く理解でき、改めて当時の上司の言わんとしていたことが正しかったと分かります。 若い部下の指導に困り、思わぬ離職に悩まされ、不当と思われるハラスメントの申し立てを受けていないでしょうか。役職を解かれる日を意識させられたり、市場の縮小など手掛ける事業の先行きの暗さを予想したり、不適切な人事異動を強いられたりといった出来事があったら、激しい怒りや強いいら立ちを感じるのは自然なことです。 現代社会で怒りやいら立ちといった激しいストレス反応が何かに役立つことはありません。がんの研究では、長期間にわたる自覚的なストレスは全てのがんのリスクを上昇させ、特に肝臓がんや前立腺がんでその傾向が顕著であることが明らかになっています。その際の気晴らしが深酒なら、さらに心身の健康を損なう結果を招きます。
管理職がメンタルヘルス維持するための4つの心構え
日々、感じているストレスを「海を沸騰させるな」という捉え方で再考すると、休みであっても頭をよぎり、心身の無理を強いたり、家族にも犠牲を強いたりしてきたかもしれない仕事や職場との間に、一定の距離を保つことができる感覚が生まれます。 その上で、WHOの示すメンタルヘルスの考え方を参考に、人間の医学的な傾向と生物学的な特徴に合わせて、以下のことを意識するようにしてはいかがでしょうか。 □ 職場は自分の能力を発揮する場と捉えること □ 仕事は新しい何かを学ぶ機会と考えること □ 働くことは心身のトレーニングと思うこと □ 得られる様々な報酬は、家族や親族、友人、仲間、地域社会と分かち合うこと こうしたことを意識することが精神的なウェルビーイングを保ち、より長いキャリアを形づくっていくことにつながるはずです。
健康企業代表・医師 亀田高志