「海を沸騰させるな!」 管理職のためのメンタルヘルスケア
メンタルヘルスは仕事の目標達成の手段でもある
ここで言う本質的(内在的)な価値とは、メンタルヘルスそのものに価値があること、道具的な価値とは、メンタルヘルスは人生の目的、日常生活や仕事の目標を達成する手段としても価値があることを意味しています。 このような視点に立てば、職場や仕事、あるいは部下に対する責任だけに偏らず、ご自身のメンタルヘルスの状況を客観的に振り返ることができると思います。 メンタルヘルスを悪化させる職場ストレスとしては、過重な負荷や要求、自由度の無さ、周囲の支援が得られないことやハラスメントが典型的な要因として考えられています。しかし、職場ストレスは精神的なウェルビーイングに影響する多くの要因の一つでしかありません。
現代は最も激しい変化の時代
メンタルヘルスの状況を振り返る際に、就職してから、現在の会社に勤め始めてからのこと、その中でご自身の仕事と職場の内外の環境がどのように変わってきたのか、少し時間をかけて振り返ってみてはいかがでしょうか。 令和を生きる我々は20万年以上の現生人類の歴史の中で、特に有史以来、最も激しい変化の時代を生きている現実があります。働き始めて以降、20年、30年という年数は一人の人間としてはとても長いと思われるかもしれません。 しかし、たった一世代に過ぎない期間に第2次産業から第3次産業へのシフトとともに、バブル崩壊、リーマン・ショック、東日本大震災、新型コロナウイルスと社会経済へのダメージが大きな危機事象を経験してきたことと思います。高度情報化と並行して固定電話とファクスの時代から携帯電話、スマートフォンの利用、インターネットの進展からSNSの利用へと情報を取り扱う手段の変容も起きてきました。ビジネスの現場では今後はAI(人工知能)やVR(仮想現実)の利活用がさらに進展していくことでしょう。
集団の8割は変化には中立・後ろ向き
雇用関係も変わり、終身雇用が約束された家族的な経営から経済状況の悪化に伴うリストラの頻発、個人の業績を報酬に反映する成果主義の浸透、兼業やフリーランスの増加、55歳の定年退職から70歳前後までの就労期間の延長、就活や転職ビジネスの拡大も一世代の中で起きてきた大きな働く環境の変化です。 人間という生き物にとって、変化は大きなストレス要因となります。ストレスを受けた場合には心と身体、行動に反応を起こすことは人体のメカニズムを探求する生理学から唱えられてきた普遍的な理論です。 組織のマネジメントの際に指摘される、いかなる集団でも優秀な成績は2割、平均的な成績が6割、不足する成績が2割となると呼ばれる2:6:2の法則や、売り上げなど成果の8割は集団の2割によって生み出されるというパレートの法則と同じように環境の変化に前向きになれる人はせいぜい2割しかありません。職場や仕事の変化に対して中立的ないし後ろ向きな人が全体の8割というのが人間の特性なのです。