米国プライベート・クレジット・ファンドの潜在力と今後の注目点
プライベート・クレジット・ファンドの課題
他方、プライベート・クレジット・ファンドには、金融の安定を脅かすような潜在的なリスクが全くないとは言えないだろう。IMFの指摘を踏まえると、具体的には、以下のような課題、懸念が挙げられる。 第1に、プライベート・クレジット・ファンドによる企業への融資は、基本的には変動金利である。そのため、FRBの金融引き締め策によって既に融資先企業の利払い負担は大きく高まっているはずであり、この先景気情勢が悪化する局面では、融資先企業が資金繰りに行き詰まり、デフォルト率が急速に高まる可能性もあるのではないか。
第2に、プライベート・クレジット・ファンドを利用する企業は、レバレッジドローンや社債による資金調達を行う企業よりも規模が小さく、多くの負債を抱えている傾向がある。そのため、こうした企業は金利上昇と景気減速の影響をより受けやすい。IMFの分析によると、借り手企業の3分の1以上が、経常利益を上回る利払いコストを抱えている(図表2)。 第3に、銀行融資との競争が激しくなる中、従来は厳格に適用されてきたコベナンツに緩みが生じている。 第4に、プライベート・クレジット・ファンドの融資の正確な価値は分からない。プライベート・クレジット・ファンドの融資はほとんど市場で取引されることがないことから、市場価格が明らかにされない。四半期に一度リスクモデルを用いて評価されることが多いが、どのファンドも主観的なバリュエーションモデルに基づいて判断している可能性がある。 第5に、プライベート・クレジット・ファンドのレバレッジは表面的には低いが、実態は必ずしも明らかではない。プライベート・クレジット・ファンドに出資する企業年金や生命保険向け銀行融資を通じて、銀行が思いのほか大きなエクスポージャーを持っている可能性もある。このような重層的なレバレッジ構造の実態は明らかでなく、金融システミックリスクが必ずしも小さくない可能性もある。 第6に、プライベート・クレジット・ファンドの主流はクローズドエンド型であるが、最近では個人投資家向けに、解約がより自由なオープン型も増えてきている。そのため、個人投資家が一気に資金を引き上げることで、ファンドの運営が行き詰まるような流動性リスクも、徐々に高まってきている可能性も考えられる。 また、個人投資家は、プライベート・クレジット・ファンドへの投資リスクを十分に理解していない可能性もあり、投資家保護の観点から課題がある、と考えられる。 第7に、金融監督当局の観点からは、プライベート・クレジット・ファンドによる開示情報が限られ、その運用実態、保有資産の状況が分かりにくい点が大きなリスクとなっている。