米国プライベート・クレジット・ファンドの潜在力と今後の注目点
金融の安定維持の観点からプライベート・クレジット・ファンドのプラス面
大幅な金利上昇を受けて、プライベート・クレジット・ファンドによる企業への資金提供は足もとで鈍り始めている。景気減速が本格化し、企業の信用リスクが高まると、ファンドのパフォーマンスは悪化し、出資や銀行借り入れによる資金調達が難しくなる可能性が出てくる。また、銀行借り入れの利回りと運用利回りとの間に逆ザヤが広がれば、ファンドの運営も次第に難しくなっていく可能性がある。 しかし仮にそうした事態に至っても、プライベート・クレジット・ファンドには、容易に深刻な金融リスクを引き起こさないというプラスの側面がある。 第1に、プライベート・クレジット・ファンドの多く(約81%)は、いつでも途中解約されるオープン型ではなく、投資家の解約が制限されるクローズドエンド型である。そのため、運用パフォーマンスが悪化する際でも、一気に投資資金が引き上げられ、ファンドが流動性危機に陥ることや、換金ニーズに応えるために、ファンドが証券を投げ売りし、金融市場を混乱に陥れることは起きにくい。 第2に、米国のプライベート・クレジット・ファンドの4分の3程度は、プライベート・エクイティ・ファンドが運営している。それは資金量が大きい大手運用会社が中心であり、それによって、プライベート・クレジット・ファンドの運営の安定性が保たれている面がある。 融資先企業の経営状態が悪化する場合、プライベート・エクイティ・ファンドが自ら追加の資本を投じることで、同じ企業に融資を行うプライベート・クレジット・ファンドの信用リスクを軽減させることもあるという。 第3に、プライベート・クレジット・ファンドのレバレッジは低い。FRBは、米国におけるプライベート・クレジット・ファンドの借入額合計はおよそ2,000億ドルであり、これは米国銀行の資産全体の1%に満たないと見積もっている。仮に、プライベート・クレジット・ファンド向け融資に焦げ付きが生じても、銀行システムに大きな影響があるようには思えない。 第4に、プライベート・クレジット・ファンドは、銀行貸出やハイイールド債などと比べて、融資条件の変更などを定めた財務制限条項(コベナンツ)に強い制約をかけている。これが、デフォルトの発生比率を引き下げる一方、企業の破綻時の回収率を引き上げることを通じて、プライベート・クレジット・ファンドが抱えるリスクを軽減している。