米国プライベート・クレジット・ファンドの潜在力と今後の注目点
しかしこうした家計とは対照的に、この間、企業は債務を大きく膨らませていった(図表1)。そして、低金利下でも高い運用利回りを求める機関投資家の資金を信用リスクが高い中小企業へと回すチャネルが拡大していった。その代表格が、投機的格付けのハイイールド債、ハイリスクの銀行融資であるレバレッジドローンの証券化商品であるCLO、プライベート・クレジット・ファンドなどである。 大幅利上げの影響で、米国景気が本格的に減速し、企業の信用リスクが高まる局面では、こうした金融商品に問題が生じないかどうか、この先、注視していくことが必要となるだろう。
プライベート・クレジット・ファンドに注目
こうした観点から注目しておきたいのが、非銀行金融機関(ノンバンク)が、銀行借り入れや社債発行を通じた資金調達が難しい中堅・中小企業に直接融資を行う、プライベート・クレジット・ファンドだ。借り手企業は、IT関連、ビジネスサービス、ヘルスケア、金融などが多い。またこうした企業は、融資審査期間が短いことや、融資額、融資期間などが柔軟に決められることから、プライベート・クレジット・ファンドからの借り入れを選ぶ傾向もある。 現時点でプライベート・クレジット・ファンド分野に大きな問題が生じている訳ではない。しかし、ひとたび景気情勢が厳しくなり、中堅・中小企業の資金繰りが悪化、信用リスクが高まると、プライベート・クレジット・ファンドへの出資、融資が細り、プライベート・クレジット・ファンドから企業への貸出が大きく減少する可能性も強くは否定できないのではないか。 そうなれば、企業の活動が縮小し、それが経済情勢の悪化を加速させるという「悪循環」が生じることも考えておかねばならない。
急成長を続けるプライベート・クレジット・ファンドと高利回りの魅力
プライベート・クレジット・ファンドは30年ほど前に生まれた仕組みだが、その規模が急拡大したのは過去5年程度、と比較的最近のことだ。その間、年率20%程度のペースで成長してきた。同市場の規模は2023年に世界全体で2.1兆ドルを超え、そのうち約4分の3の1.6兆ドル程度を米国が占める。 リーマン・ショック後の国際的な銀行規制強化を受けて、銀行は企業向け貸出の抑制に動いた。そうした中で、プライベート・クレジット・ファンドは、企業に必要な資金を提供し、経済成長に大きく貢献してきたと評価できるだろう。また、昨年の米国中堅銀行の破綻を受けて、米国の銀行は貸出により慎重となっており、企業がプライベート・クレジット・ファンドを通じた資金調達に依存する傾向を一段と強めているとみられる。 ファンドに出資するのは、米国の年金基金や保険会社といった機関投資家が中心だ。プライベート・クレジット・ファンドは出資者が限定されている私募ファンドであり、自由に資金を引き上げられない。また市場で取引はできない。つまり流動性が低いことが、投資家にとっては難点という面はある。 一方で、低金利下でも高いリターンが得られることや、市場で取引されないことからボラティリティ(価格変動率)が低いことが魅力となっている。 国際通貨基金(IMF)によると、2023年末時点で、投資適格社債の利回りの中央値は5%程度、ハイイールド債(投機的格付け)は8%弱、レバレッジドローンは9%程度であるのに対して、プライベート・クレジット・ファンドは11%程度とかなり高い。これがプライベート・クレジット・ファンドの投資家には大きな魅力となっている。