映画『ボーはおそれている』アリ・アスター監督×大島依提亜×ヒグチユウコ【座談会】最新作やポスターデザインについて語り合う
倍速再生に向かない映画とデザイン
──映画宣伝のためのデザインについて、話をさらに伺えればと思います。大島さんが手がけた『ミッドサマー』のパンフレットはとても凝ったデザインと製本ですね。 大島:先ほど話した「不愉快のサービス」について監督の作品から考えていて、見やすいではなくて見にくい、読みやすいではなくて読みづらい、めくりやすいのではなくてめくりにくい、というものを目指しました。作中に登場するホルガ村の聖典である「ルビ・ラダー」は漉いた紙を断裁せず、端がよれた状態のまま綴じられていますが、パンフレットもその形も模して作りました。初めてやりましたが、まっすぐ揃った紙とは違って案の定めくりづらい。ただ発見があって、めくりづらいことによってちゃんとゆっくり読むようになるんです。心地よさを追求した文化の中に取りこぼしてきた可能性があるのではないかと思いました。映画でもデザインでも。 ヒグチ:最近は配信された映画を倍速で見るといったこともあるようですが、すごくもったいない。でも先が見えてしまうホラーと同じで、ありきたりに作られたものは、映画でもパンフレットでも、そうやって流し見されてしまう。 アスター:そう思います。 大島:ですから、テンポがいいだけではない、ぎこちなさのようなものが必要だと思います。 ヒグチ:次がどうなるかわからない。アリ監督の作品自体が、まさに倍速向きではないですね。それは素晴らしいことだと思います。
福島夏子(編集部)