学ぶべきお手本は「オリラジ」と「羽田衝突事故」…チームレジリエンスが「モグラ叩き」の職場を変える
オリエンタルラジオは、なぜ、何度叩かれても這い上がれるのか?
安斎 経営の不確実性が高まる中、経営層は孤独で疲弊し、現場のメンバーも疲弊しています。その間に挟まれ、多くの矛盾にさらされているのが中間管理職です。対処すべき課題が増大して、個々人がバラバラにモグラ叩き(課題に対応したそばから別の課題が発生する)に明け暮れてしまっています。 大事なのは、「ゲームのルールを見直すほうがいいんじゃないか?」などと、チームで立ち止まって考えられるかどうか。すると、チームの役割分担や情報共有の仕組みを見直さないといけない、などとチームの学習が進んでいく。レジリエンスの高いチームは、このように振り返りをして再現可能な教訓を言語化するので、必然的に成長を経験していくのです。 ──チームレジリエンスを発揮した事例としてお二人が注目しているものは何ですか。 池田 2024年1月2日に起きた日本航空516便衝突炎上事故で、炎上する機体から乗員乗客379人がわずか18分で全員脱出しました。この奇跡の救出劇を支えたCA(客室乗務員)たちの避難誘導は、まさにチームレジリエンスを発揮した好事例だと考えています。 この脱出を支えた一因が「90秒ルール」です。旅客機の乗員は年に一度、90秒以内の避難誘導を訓練します。つまり、「被害を最小化する」ステップとして事故が起きたときの動き方をしっかりトレーニングしていた。このことが、CAたちの迅速かつ冷静な判断を支え、乗客の安全確保につながったのではないでしょうか。 このように、困難を完全に避けられなくても、充分な備えによって困難に対処しやすくなるのです。 安斎 企業以外の事例で注目しているのが、お笑いコンビの「オリエンタルラジオ(以下オリラジ)」です(笑)。 芸人やインフルエンサーは、一躍有名になったかと思えば、その波が一気に引いていってしまうもの。オリラジの場合、藤森さんと中田さんは「武勇伝」ネタで一世を風靡するものの、冠番組の終了とともに人気が低迷してしまいます。ところが、藤森さんの「チャラ男」で再ブレイクしつつ、中田さんは自分たちの失敗談を「しくじり先生」でオープンにした。プレゼンテーション芸がウケた中田さんは、YouTube開始半年でチャンネル登録者数100万人を突破しました。そしてオリラジの楽曲「PERFECT HUMAN」が大ヒットへ。これは、オリラジ本来の強みといえる「武勇伝」を刷新して活かしたもの。 彼らは低迷しても大炎上しても、現状を分析し、そのたびに盛り返してきた。まさにチームレジリエンスを体現した事例といえるでしょう。 旅客機のチームのように失敗が致命的な場合は、事前の備えが欠かせない。一方で、炎上のように予測ができず後でカバーすべき場合は、いかに視点を転換してピボットするか、あるいは過去に積み上げてきた資産を活かすかが重要になります。 著書では「レジリエンスの4つの戦略」というマトリクスを紹介しています。困難を「活かす―あしらう」の観点と、困難に「すばやく―ゆっくり」対処するという観点によって、「スーパーボール/バネ型」「風船型」「起き上がりこぼし型」「柳型」というふうにレジリエンス戦略を4種類に分類しています。 その中で、オリラジは、困難を活かしすばやく対処する「スーパーボール/バネ型」のレジリエンス戦略を体現しているのです。 ■属性も価値観もバラバラ。メンバーのコミットメントを高めるためには? ──プロジェクトベースの業務が増え、メンバーの属性や価値観が多様化しています。そんな中、「チームレジリエンス発揮の3ステップ」の「課題を定めて対処する」というステップは、難しいのではと感じました。成長意欲もチームへの帰属意識も異なる中で、リーダーはこうした状況をどう乗り越えたらいいのでしょうか。 池田 業務形態も価値観もさまざまで、チームとして一体感を持ちにくい状況はたしかに増えていますね。そんなときは、チームの目標は何か、それが自身のキャリアとどうつながっているか、共通認識を確かめる機会を設けることをおすすめします。ミーティングの一部でもかまいません。すると、チームへの関わり方が小さいメンバーも、「この業務は自分のためにもなる」と思えて、チームに尽くそうという意欲が湧くと思います。 安斎 どんなチームでも、コアメンバーとその周辺のアクティブメンバー、そしてさらにその周りに関わりがゆるやかなメンバーがいます。課題を定める際に必ずしも全員がフル参加する必要はなくて、リーダーとサブリーダーで設定した課題に対し、他のメンバーから意見を募る、という形でもいいかもしれない。大事なのはリーダー一人で独裁的に決めずに、他者の視点を取り入れること。 また、周辺的なメンバーにもコミットしてもらうためには、自分のフィードバックが何かしらチーム運営に影響を与えた成功体験が必要になります。「あのときの意見が反映されている」といった状況をつくることが、個々のコミットメントを高めることにつながると思います。