学ぶべきお手本は「オリラジ」と「羽田衝突事故」…チームレジリエンスが「モグラ叩き」の職場を変える
<挫折や苦境を乗り越えて前進する力「レジリエンス」の重要性は認識されつつあるが、現代の職場においては組織全体の「チームレジリエンス」が不可欠に>
理不尽なクレーム、業績不安、SNSの炎上、ギスギスした人間関係──。これらに無関係でいられるチームは少ないでしょう。多くのチームは、次々に困難に直面し、疲弊しています。 【図解】オリエンタルラジオは「スーパーボール/バネ型」…4種類のレジリエンス戦略 チームに降りかかる困難に対処し、困難から学び、次なる困難の被害を最小化する。その力やプロセスが「チームレジリエンス」です。チームレジリエンスがなぜ大事なのか? どうすれば高められるのか? これらを解説したのが、筑波大学ビジネスサイエンス系助教の池田めぐみさんと、株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEOの安斎勇樹さんの共著『チームレジリエンス』(日本能率協会マネジメントセンター)です。変化にしなやかなチームになるための方法をお聞きします。 (※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です) ■悩める新人マネジャーのチーム運営に役立ててほしい ──まずは、お二人が『チームレジリエンス』を執筆された背景を教えていただけますか。 池田めぐみさん(以下、池田) 私はもともと学習環境デザインを専門とする研究室で、キャリア開発の研究をしていました。キャリア開発では、「目標を決めて、そこに向けたプランを考える」ことが主流な実践でした。私も、「研究者になりたい」という目標を持っていたのですが、当時は教官から「このままだと進学できるかわからない」といわれ、進路に悩みました。「いくら目標を決めても、夢が叶うとは限らないのでは」と疑問を持ったのです。 そんな折に知ったのが「レジリエンス」という概念。レジリエンスとは、挫折を乗り越えたり、苦境に陥っても前向きに進んだりする力のこと。レジリエンスを高める方法の研究をすれば、私のように困難な状況で苦しんでいる人の力になれるのではないか? そう思い、個人のレジリエンスに関する研究を始めました。 著書でチームのレジリエンスに焦点を当てたのは、社会人として活躍する同期がチーム運営で壁にぶつかっていたからです。チームレジリエンスとは、チームが困難から回復したり、成長したりするための能力やプロセスのこと。これをどう発揮するかを本にまとめることで、周囲の悩める新人マネジャーたちのチーム運営に役立ててほしいと思いました。 安斎勇樹さん(以下、安斎) これまで多くの経営層やミドルマネジャー向けに組織開発や研修を担当させていただきましたが、リーダー職に就く人は、レジリエンスが強く、そう簡単には心が折れない方が多い。しかし、責任の重さと孤独さゆえに、事業が低迷すると、どんなに人格者でも思考がダークサイドに落ちていって、うまくいかない理由をメンバーや顧客など「他人」のせいにしてしまうことがある。これって実は、リーダーが極度のストレスから自己防衛するための「個人のレジリエンス」の裏返しなんですよ。 そこで気づいたのは、リーダーの心が折れないことと同じくらい、組織が崩壊しないことも大事ということです。レジリエンスの概念を、個人からチームや組織に拡張する必要性を感じていたところ、海外ではチームのレジリエンスに関する研究論文が少しずつ出てきていました。ところが、論文の数は50本程度とまだまだ少なく、日本語の情報はほとんどない。そこでまずは、チームレジリエンスの概念を日本語の書籍で提示しようと、池田さんと共著を書くに至りました。 ──チームレジリエンスが現代の職場において必須である背景について教えてください。 池田 いまは不確実性の時代といわれますが、その本質は「未来のわからなさ」と「現在のわからなさ」にあります。解決すべき問題の輪郭がつかめず、焦りや閉塞感が募っていく。 人間には、「仕事量が多い」といった明確なストレスよりも、「これからどうなるかわからない」という予測不可能なストレスのほうを強く感じる特性があります。現在の職場では、いきなり顧客から理不尽なクレームがくる、エースが離脱するといった、後者のストレスが急増しているのです。もはやリーダー一人で抱えこめるレベルではなく、チームとして困難を乗り越える力がますます重要になっていると捉えています。 ■途方もない「モグラ叩き」に、チームとしてどう対処するか? ──レジリエンスは成長も内包すると書かれていました。なぜ、困難に立ち向かう過程が成長の糧になるのでしょうか。 池田 レジリエンスの発揮では、3つのステップを経ていきます。ステップ1は「課題を定めて対処する」、ステップ2は「困難から学ぶ」、そしてステップ3は「被害を最小化する」。これらをくり返すことで、困難を避ける対策を打てる。さらには、メンバー同士の対話を通じて、互いの価値観や最適な業務アサインがわかり、チームとして成長していけるのです。