まずはマンガで読む。人類の「経済の不平等」との闘い(レビュー)
トマ・ピケティの『21世紀の資本』は世界的ベストセラーで、映画にもなり、テレビで特集も組まれた。だがその続編ともいうべき『資本とイデオロギー』(山形浩生・森本正史訳、みすず書房)はそこまで流行していない。個人的にはこの続編の方が面白いから、ちょっと残念だ。 なにが面白いかといえば、経済の不平等がいかにその時代の支配的な意見(イデオロギー)で正当化されているのか、そしてこの正当化を打ち破った新しいイデオロギーも、また次なるイデオロギーの挑戦をうけてきたこと。また、経済の不平等に対して、時には失望と後戻りを繰り返しながらも人類が闘ってきたことが、具体的なデータをもとに解明されている点だ。しかも従来は不平等と闘っていた左派政党が、いまや高学歴の富裕層を中心に支持され、貧しい人たちの実感から乖離してしまっている。 この経済の不平等をめぐるイデオロギー闘争を、本書は二百年以上にわたるフランスの一家族の歴史を題材にしてマンガとして描いている。原典にいきなり取り組むよりもまずはこの本から始めてもいいだろう。それに原典にはない、コロナ禍まで舞台になっており、ピケティの最新の改革案も描かれていてお得だ。 マンガで描かれている家族は、もともと奴隷制や植民地制度で恩恵をうけた人たちだったが、その遺産を完全に食いつぶすまで二世紀以上かかっている。いったん経済格差が固定化されてしまうと、不平等を政治的に改革するまで、実に長い時間がかかることを本書は示唆している。 最近でも世界の富裕層はタックス・ヘイブンで税金逃れをしている。世界全体での取り組みが必要だが、金融資産の全貌の把握には至っていない。ピケティは経済全体のスケールで、労働者が資本参加することを強くすすめる。個人的には興味深い案だと思うが、これも実現には茨の道だ。本書を読んだ後はぜひ原典と格闘してほしい。 [レビュアー]田中秀臣(上武大学教授) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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