高級ブランドの成長が鈍化しているが、高級品の顧客には依然として熱い視線が注がれているなかには、彼らのロイヤルティに期待を寄せる小規模なブランドもある。ハイエンドブランドの売上は顧客ベースのわずか2割の、再び購入してくれる富裕層が生み出していると伝えられる。 若手デザイナーにとって、このような高級品のロイヤル顧客は大切だ。ロンドンのデザイナーには、9月のファッションウィークの参加を見合わせざるを得なかった者が何人もいる。ショーの開催には1.2万～6万ドル（約180～900万円）もの費用がかかるためである。また、複数シーズンにわたって参加してきたブランドにとっても、高級ブランドのリピート顧客を魅了し、維持することは重要だ。 パトリック・マクダウェル氏は、自身の名を冠したブランドや商品を潜在顧客に知ってもらう手段として、ロンドンの会員制プライベートクラブに注目している。同氏はサステナブルな素材や生産が特徴のオーダーメイドのアウターを専門としており、価格は3000ドル（約45万円）を超える。 「今後6カ月間で、クラブでのディナーやイベントに招待される人々に向けたイベントで、顧客ベースを構築していきたい、そして提供できる商品を展示するチャンスを得たいと考えている」。マクダウェル氏は、開催するクラブの名前を明かさなかった。 公的な記録によると、ロンドンには少なくとも28のプライベート会員制クラブがあり、毎年新設されている。人気のソーホー・ハウス・グリーク・ストリート（Soho House Greek Street）には、19万人を超える会員がいる。だが、多くのクラブは会員リストを公開せず、人数を少数に抑えており、入会に際しては収入を聞かれるなど厳格な手続きを経る。その結果、一部の会員制クラブには、ブランドがターゲット顧客とする富裕層が会員として存在するのだ。 「まずは非常に小さく始める。最初のイベントには、おそらく10名程度になるだろう」とマクダウェル氏。「私たちはロンドンのプライベートクラブのネットワークと連携する予定だ。会員数が多く、立地も素晴らしいからだ」。ロンドンで最も有名な会員制クラブのひとつ、アナベルス（Annabel’s）はファッション界とのつながりで知られ、有名なザ・バーレー・クラブス（The Birley Clubs）に属する。アナベルスではバーバリー（Burberry）、ヴィクトリア・ベッカム（Victoria Beckham）、アーデム（Erdem）、ネンシ・ドジョカ（Nensi Dojaka）などのイベントが開催された。 「これらのブランドによって、会員限定の朝食ファッションショーにて最新コレクションを会員に発表することができた」と語るのは、ザ・バーレー・クラブスのクリエイティブディレクター、タチアナ・ハルチラヴァ氏。なかには、ブランドのロイヤルカスタマーになる会員もいるという。 「ザ・バーレー・クラブスで開催したファッションブランドのイベントは、非常に人気がある」と同氏。「会員にとってイベントは、ブランドやデザイナー自身について詳しく知ることができる機会。ブランドの歴史や体験、ビジョンについて直接聞くことができる。これはショッピング体験を超えたもの。イベントが生み出した記憶やつながりは長く残り、ブランドの継続的な関係の中でも続いていく」。 会員たちは、あまりよく知られていないブランドや、オーダーメイドのサービスを提供するブランドにも心を躍らせると、ハルチラヴァ氏は語る。 「必ずしも衣服を見てもらうためだけの場ではない。イベントのために何か必要なときや、冬用の新しいコートを誂えたいという際に、私たちが対応できるということを知ってもらう場でもある」とマクダウェル氏。「彼らはすでに素晴らしいワードローブを持っており、必ずしも新しい服を切望しているというわけではない」。 アナベルスではファッションの最新コレクションを中心としたイベントのほかに、最近ではスキャパレリ（Schiaparelli）CEOのデルフィーヌ・ベリーニ氏と、同社で伝統・文化プロジェクトの責任者を務めるフランチェスコ・パストーレ氏のパネルディスカッションを主催したという。「スキャパレリが当時のファッション界に与えた多大なるインパクトや、コンテンポラリーファッションに与え続けている影響について、共に探っていった」とハルチラヴァ氏。 アナベルスが主催したファッションイベントは、いずれも満席となった。会員たちは、クラブのニュースレターからイベントを予約することができる。 「パンデミック以前から、ファッションイベントは会員を強く引き付けるものだった」とハルチラヴァ氏。「イベントが提供するのは、単なるファッション体験以上のもの。女性起業家、35歳未満の人々、あるいは世界中のテックリーダーといった幅広い参加者が集まり、志を同じくする人々と再びつながってネットワークを構築するための、場所を提供している」。 そして参加の機会は女性会員のみに限られない。ハルチラヴァ氏によると、フェラガモ（Ferragamo）などのブランドが男性に焦点を当てた講演を開催し、好評を博したという。 ［原文：How London’s designers are leveraging luxury members clubs for customer acquisition］ ZOFIA ZWIEGLINSKA（翻訳：田崎亮子／編集：山岸祐加子）