「夏休み明け学校に行きたがらない…」いじめ・不登校ゼロを目指す教育のプロに聞いた
夏休みは、子どもにとっても親にとっても、生活リズムが変わる時期。そのため、休み明けに不登校になってしまう子どもたちも多い。子どもの不登校を防ぐには、どうすればいいのだろうか。長年にわたって、小・中学校の校長を務めた経験から、“いじめ・不登校ゼロを目指す”ために活動しており、「教育漫才」の提唱者である田畑栄一氏にインタビューした。 ◇夏休み期間の子どもの心に対応するには? 心の変化が大きい夏休み明け、学校に行きたくないと不登校になるのは、誰にだって起こりうること。親としても原因を知り、どのように子どもに接すればいいのか準備しておきたいところだ。田畑氏によると、休み明けの不登校には大きく三つの原因があるという。 「一つ目の原因は、生活が大きく変わってしまい、立て直しができないことです。夏休みには夜更かしをしたり、一日中遊んだりすることもありますよね。親と過ごす時間も長くなります。そうすると、習慣化していた生活のリズムが崩れたり、時には家族との衝突が起きたりします。この生活リズムやバランスが崩れると、うまく立て直すのは難しいため、元通りの生活が苦しく感じ、学校に行きたくなくなってしまいます。 これを解決するためには、まず、生活リズムの立て直しを親が一緒になってやるといいと思います。決まった時間に起きるようにしたり、ラジオ体操やスイミングスクールなどの定期的な予定をつくったりもいいですね。ゆっくりさせてあげたい気持ちもありますが、ある程度、決まったリズムのなかで生活できると、休み明けにお子さん自身が楽になります 二つ目の原因は、1学期で構築された人間関係に対し、すでに子どもがストレスに感じていること。この場合には、まずじっくりと話を聞いてあげてください。子どもにとって、家庭を絶対的に安心できる場所にすることが必要です。 なんでも相談できる雰囲気が家庭にあれば、心の安全基地になりますから。そのうえで、大騒ぎをせずに先生に相談することも一つの手です。子どもが学校での居づらさを感じている場合には、クラスでの声掛けなどを配慮してもらうことで、登校の手助けになります。 原因の三つ目は、宿題を完了できなかったことで、先生に叱られてしまうのではないかと不安になること。誰だって叱られるのは嫌ですよね。宿題について、子どもが自分から取り組めない、やりたくないと感じている場合は、一緒に取り組むことが大切です。 自分自身で計画的にこなすことが大切と思っている親御さんも多いようですが、やり残した結果、学校に行きたくなくなってしまえば本末転倒。一緒にやろう、わからないところは私が手伝うよ、などと声を掛けて、心理的負担を減らしてあげてください」 どんな場合でも、最も大切なのは子どもが親の愛情をしっかりと感じ、安心して家で過ごせるようにすること。 「子どもが親に相談することできる家庭の雰囲気であれば、学校に行くのがストレスになっているときにも、すぐに気づくことができますし、原因にも対処できます。甘やかしという捉え方ではなく、困っているときに“大人は手を貸してくれる存在である”ことを教えるチャンスです。可能な限りの愛情を注いであげてください。 学校への相談をためらう家庭も多いですが、積極的に連絡してほしいと思います。相談は、“情報提供”だと考えてください。 ・〇〇に対してストレスだと感じているようなので、少し気にかけてください。 ・宿題が残っていて怒られないか心配しているようです。温かく見守ってください。 このように、事前に相談があるだけで、先生は子どもに対する接し方を準備でき、不必要に叱ることもなくなります。先生とも日常的なコミュニケーションをとることで、子どもの負担を減らせると頭に入れてほしいです」 ◇「ある家族を助けたい」その思いで始めた教育漫才 学校での“いじめ・不登校をゼロにする”ための取り組みをしてきた田畑氏。その一環として、「教育漫才」を提唱した第一人者だ。なぜ、漫才を教育に取り入れることになったのだろうか。きっかけとなったのは、ある家族を助けたいという思いだった。 「当時、私が校長を務めていた埼玉県の公立小学校に、別の学校から、あるご家族が相談に来たんです。話を聞くと、1年生の息子さんが学校に行きたがらず、クラスになじめないなかで、学年の途中の5月でクラス替えがあったと。1年生は手がかかるのは当たり前なのに、学校の都合で子どもに負担がかかっているのはよくないなと感じました。 そこで、私がいる学校に体験入学してみたらと声をかけたんです。本当に困っているご家族を目の当たりにして、なんとか笑顔にしてあげたい、助けてあげたいという気持ちが強くなっていきました。 そこで思いついたのが『教育漫才』。マイナスな言葉を使わず、笑顔になるには教育的に配慮された漫才だ! と思ったんです。ちょうどその前年、大宮にエンタメの劇場ができたタイミングだったこともあり、そのエンタメ会社に連絡して、学校で漫才を教えたい、イベントをしたい、と持ち掛けたんです。 すると、先方もすごく協力してくださって、相談しながら形にしたのが漫才大会でした。子どもたちがペアになって漫才を作り、親御さんや地域の人に発表するイベントの実施を計画しました」 漫才を学校での教育に取り入れることについて、周りの反応はどうだったのだろうか。 「先生方からは、意外にも反対意見は少なかったです。教育に取り入れるなら、漫才より落語のほうがいいのでは? という意見の先生もいましたが、落語はプレゼンテーションで一対多数なのに対し、漫才はボケと突っ込みのコミュニケーションで成り立ちますよね。伝える力を培うのに、非常に有効だと思っていました。 保護者の皆さんにも、温かい言葉でのコミュニケーションを学ばせたい、それを『教育的な』教育漫才として実践したいと説明しました。これまでにない取り組みでしたから、反対意見は覚悟していましたが、アンケートをとったところ、保護者の皆さんも99%が賛成でした」