なぜ浦和レッズの興梠慎三は8季連続2桁得点のJ1新記録を達成できたのか?
歴史を塗り替えるメモリアルゴールは浦和レッズのエースストライカー、興梠慎三(33)の右足のつま先から生まれた。湘南ベルマーレのホーム、Shonan BMWスタジアム平塚に乗り込んだ1日の明治安田生命J1リーグ第25節が、レッズのキックオフで開始されてからわずか3分後だった。 自陣の中央でパスを受けた興梠が、右ウイングバックの橋岡大樹(20)へボールをはたく。そして、橋岡が逆サイドへロングパスを通し、ボールを受けたシャドーの武藤雄樹(30)がペナルティーエリア内で体勢を整えている間に、興梠は50m近い距離を一気に駆けあがっていった。 「あの状況になって中央を見た瞬間に興梠さんが見えて、あそこに走り込んでくるだろうな、というのは僕のなかでわかっていたし、興梠さんも僕のことを信じて入ってきてくれたので」 武藤が口にした「あそこ」とはニアサイドを指す。一度は反対側へ走っていった興梠が、武藤とのあうんのホットラインを開通させてニアサイドへ急旋回。必死にマークについてきたDF坂圭祐(24)の目の前に抜け出し、武藤が送ったグラウンダーのクロスに右足のつま先を軽くヒットさせた。 わずかにコースを変えたボールがベルマーレの守護神、秋元陽太(32)の反応を狂わせ、反対側のゴールネットへゆっくりと吸い込まれていく。4試合ぶりのゴールとなる今シーズン10点目が決まり、レッズが電光石火の先制点を奪った瞬間に、興梠によってJ1記録が塗り替えられた。 8シーズン連続の2桁得点。しかし、偉業を達成しても興梠が喜んだのは一瞬だけだった。追加点を奪えないまま試合終了間際に献上したPKで1-1の同点に追いつかれ、6試合ぶりとなる白星を手にできなかった悔しさが、異能のストライカーから会心の笑顔を奪っていた。 「武藤からいいボールが来ましたし、早い時間帯に点を取れたことはよかった。歴史に名を刻めたことは非常に嬉しく思いますけど、個人の記録よりもチームが優勝するために戦っているので」