グラフィックデザイナー・八木幣二郎 新作個展で考えた「デザイナーの責任」と「未来に対してすべきこと」
――デザイン史の変化で言うと、デジタルフライヤーやSNSなどアウトプットする形態も変わってきていると思います。今回は、特に地下1階の展示含めて印刷物が多かったですが、意識的な取り組みだったのでしょうか?
八木:体感的に、展示で制作したようなB1判~B0判サイズのポスターって、この先制作できる機会がどんどんなくなるんじゃないかなと感じていて。もちろん平面構成を美大受験のときに勉強したり、大学では烏口(※均一な太さの線をひくための描画用具)で線を引いたり、フライヤーやポスターの作り方を授業で習うこともありましたが、いざ卒業したら環境として紙を触る機会はまれでした。今、そうした時代の流れもあってか、同世代のグラフィックデザイナーの作品を見ていると、逆にデジタルフライヤーに紙のテクスチャーを乗せる手法が流行っています。紙の必要性が失われているからこそのちょっとした渇望というか。
――物質が必要なくなっている時代だからこそ、物質性をデザインの中で求めているのですね。
八木:でも個人的には、グラフィックデザイナーとグラフィックアーティストの明確な相違点に、紙との関係性があるように思っていて。デザイナーは、やっぱり紙について考える仕事なんじゃないかなと。その端境(はざかい)期に活動している自分としては、この機会を逃したら大判印刷のデザインに取り組むこともないように思えて、初めて挑戦する量とサイズ感を意識的に設定しました。
――10人の巨匠によるポスターは、ご自身でセレクションされたのでしょうか? 未来的なメッセージが多いように感じました。
八木:お借りできなかったものもありますが、自分で選びました。展示全体として、会場の音楽もしかり、万博のパビリオンのような雰囲気を目指しました。「月の石展」や「ツタンーカーメン展」の告知ビジュアルに映っているような未知のものが、本当に会場で見られたときの驚きを作りたいなと思って。地下1階にオリンピックや万博、ワールドカップなど、これまでのグラフィックデザイン史において重要な画期となったポスターを展示して。1階では今回の展示のキービジュアルにフルCGで描かれているオリジナルのプリンターが、本当に実在するような構成にしました。