グラフィックデザイナー・八木幣二郎 新作個展で考えた「デザイナーの責任」と「未来に対してすべきこと」
八木:今の自分のデザインがどのグラフィックデザインの文脈にも当てはまらないのであれば、せっかく「ggg」で展示できるのだから、これを機にグラフィックデザイン史に新たなレールを引かなきゃなという思いがありました。その思いをきっかけに、架空の企業「NOHIN」をねつ造して、現在、そして未来から見ても、過去に3DCGを使ったグラフィックデザインが存在したことを証明するような、オーパーツ(間違った出土品)的な資料展示形式を取りました。
――今回の展示のテキストにもあった「グラフィックデザインは嘘を本当にできる」という考え方にもつながってきそうですね。
八木:そうですね。デザインの力を考える中で、プロパガンダデザインについてもあらためて勉強しました。公に語られることはあまりありませんが、ナチスドイツのグラフィックデザインは非常に重要で、デザイナーとしては、どうしても考えざるを得ない。歴史的な事実としてあれだけ人々を動かしたにもかかわらず、結局デザイナーの責任は問われないじゃないですか。最初に扇動された10代後半~30代前半の若者が興味を持って、徐々に上の世代も興味を示すような構造は、ある意味、広告戦略そのものだと思います。デザインの力がどのように作用し、そこで果たして自分に何ができるのか。そうしたデザイナーの責任や未来に対してすべきことを考えた結果としての展示発表でした。
意識的にこれまでやっていない量とサイズに挑戦
――1階も地下1階も全て新作展示ですか?
八木:そうですね。3DCGを主に使っていきたいという気持ちがありつつも、正直ここ数年、アウトプットできる手札に詰まっていた時期がありました。バリエーションが出せないというか。かといって、3DCGを使わない選択肢を取ると、先ほど言った3軸とも交わらない上、どこに軸足を置いてよいか分からなくなるという危機感もあって。スランプを乗り越えるためにも、今回の展示では苦しみながらも、とにかく量を作っていきました。