グラフィックデザイナー・八木幣二郎 新作個展で考えた「デザイナーの責任」と「未来に対してすべきこと」
――制作時は、完成形を想像しながら手を動かしていくのでしょうか?
八木:そうですね。料理のレシピのように、自分専用のテクスチャーメモが手元にあってそれを見返しながら作りたいテクスチャーを形にしています。これまでに手を動かしながら、見つけたやり方も書いてあれば、ほかの方のデザインや写真を見て解析した技法もメモしています。
今回の展示で言うと、戸田ツトムさんによる寺山修司主宰の劇団天井桟敷公演「観客席」に並べたポスターでは、一般的にゲームエンジンとして使われる「UnrealEngine」でベースを作ってレンダリングして、その画像をいかにテクスチャーとして落とし込むか模索していきました。もともとテクスチャーフェチなところもあるので、普段SNS上では失われてしまう解像度のディテールを存分に印刷で実現できる過程は楽しかったです。
――八木さんらしいグラフィックデザインの一つに、テクスチャーへのこだわりがありますよね。
八木:幼少期からSF映画や漫画、ゲームが好きで、デザイナーよりも先に、クリーチャーを作るコンセプトアーティストになりたいと思ってました。中でも小学生低学年のときに読んでいた、水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」からの影響は大きいです。小学生のころは、休み時間になるとずっと「ゲゲゲの鬼太郎」の漫画を読んでは、自分も模写したりオリジナルの妖怪を描いたりして。水木しげるが描く妖怪や背景のテクスチャーは好きでしたね。
――これまで美術系のお仕事が多かったと思いますが、今回の展示を機にいろいろと自分の中のジレンマから解放されて、今後はどのような仕事をしてみたいですか?
八木:今回の展覧会のために制作したポスターのようなグラフィックデザイン(紙と触れる印刷仕事)と並行して、1階の展示のようなアートディレクション(印刷のためのルール作りやCIなど)もやりたいです。「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「エリオット エミル(HELIOT EMIL)」などファッションにも興味があるので、ブランドのディレクションにも入りたいですし、小さいころから好きなSF映画、アニメの仕事もやってみたいですね。CGデザインを使った街のサイン計画制作にも興味があります。3DCGのソフトだけではなく、さまざまなソフトや技法を自分の中でアップデートさせながら、あらゆるジャンルでグラフィックデザイナーとして活動していきたいです。